潜在価値の時代⑧戦略とは世界創造である

平野淳|生成AI潜在価値開発ラボ株式会社

平野淳|生成AI潜在価値開発ラボ株式会社

2026年7月7日 20:32


前回、私は、潜在価値開発が目指すものは単なる差別化ではなく、唯一性であると書いた。
唯一性とは、他に置き換えが効かない価値をつくることであり、それが顧客に伝わり、共有され、共感や感動を生み、さらには共創へと広がっていくことだった。
では、その唯一性を持つ企業は、最終的に何をするのか。
単に競争に勝つだけなのか。
私は、そうではないと思っている。
戦略の最終形とは、単に競争に勝つことではない。
新しい基準をつくることである。もっと言えば、新しい世界をつくることである。

問題とは基準とのギャップであると前にも述べた。
だから、新しい基準をつくれば、新しい問題が生まれる。
さらに、その問題を解決する新しいカテゴリーが生まれる。
人は、問題を通して世界を認識し、カテゴリーを通して世界を選択する。
つまり、基準が変われば、世界の見え方そのものが変わるのである。
だから私は、戦略とは新しい世界を創造することだと考えている。

戦略は「勝ち方」では終わらない

一般に戦略というと、多くは競争の文脈で語られる。
どう勝つか。
どう差別化するか。
どう優位に立つか。
もちろん、それも戦略の一部ではある。
企業が現実の市場で活動する以上、競争は避けられない。
だが、それだけでは戦略を狭く見すぎている。
なぜなら、本当に強い戦略は、単に既存のルールの中で勝つのではなく、
ルールそのものを変える
ことである。

つまり、戦略とは、既存市場の中で最適な位置を取ることだけではない。
価値の基準、問題の設定そのものを変えることでもある。
ここまで行って初めて、戦略は本来の力を持つ。
端的に言えば、
戦略とは、勝ち方の技術である前に、新しい基準をつくる力である。

問題を創れば、世界が変わる

市場とは、与えられた固定の現実ではない。
何を価値とみなすか。
何を問題とみなすか。
それによって、世界の見え方は変わる。

たとえば、それまで誰も問題だと思っていなかったことを問題として提示すれば、新しい需要が生まれる。
それまで当然だったカテゴリーの見方を変えれば、新しい市場が立ち上がる。
それまで比較されていた機能を超えて、別の意味を提示すれば、競争の軸そのものが変わる。
つまり、戦略とは、既存の世界の中で動くことだけではなく、
世界の見え方を変えること
でもある。
ここでいう世界とは、大げさな話ではない。
顧客が何を問題とみなし、何を価値とみなし、何を選ぶかの基準のことだ。

問題とは基準とのギャップである。
その基準が変えれば、新しい問題が創造され、市場が生まれる。
だから、それは十分に世界創造なのである。

潜在価値開発は、世界創造の入口である

潜在価値開発が重要なのは、まさにここにある。
それは単に企業の中の見えない価値を見つけるためだけの方法ではない。
その見えない価値をもとに、
新しい価値定義を立て、新しい基準を創り、新しい問題設定を行うための方法でもある。

ヤクルトは「腸の健康」という基準を提示したことで、それまで問題だと思われていなかったことが新しい健康問題として認識された。
それは、健康とは何かを捉え直す新しい基準の提示であり、新しい世界の見え方の提示でもあった。

私自身も、新しい世界を提示する実践者でありたいと思っている。
7章で述べたように、私が「潜在価値」という概念を提唱し、新カテゴリー創造を試みたのも、そのためである。私は「潜在価値」という新しいコンセプトを定義し、それを軸とした新しい経営戦略の枠組みを提案してきた。つまり、私自身もまた、一つの新しい経営戦略の世界を提示しようとしているのである。

こうした取り組みは、すべて世界創造の入口である。
新しい世界観を、大げさな思想として語るのでなく、市場の中に実装していくこと。
そこに戦略の本質がある。

AI時代ほど、世界創造が問われる

AI時代に、この意味での戦略がより重要になるのはなぜか。
それは、見えるものの処理が容易になるほど、既存の枠組みの中での最適化が相対化されるからである。
比較、分析、要約、たたき台づくり。
こうした部分はAIがどんどん担う。
すると、人間の側に残るのは何か。
それは、

  • どんな価値を定義するか
  • どんな新しい基準をつくるか
  • どんな問題を立てるか
  • どんな世界観を提示するのか

である。
つまり、AI時代に強くなる企業とは、単にAIを使いこなす企業ではない。
新しい基準をつくれる企業である。

既存の枠組みの中でAIを便利に使うだけでは、効率は上がっても、世界は変わらない。
だが、AIを使いながら新しい基準を立てられる企業は、世界の見え方そのものを変えられる。

潜在価値開発は企業の自己定義でもある

潜在価値開発を進めていくと、結局最後には、企業は自分に問い返さざるを得なくなる。
自分たちは何者なのか。
何を大事にしているのか。
何を唯一性とするのか。
市場に何を提示する存在なのか。
どんな世界を実現したいのか。
つまり、潜在価値開発とは、単なる発見プロセスではない。
企業の自己定義のプロセスでもある。
それは、企業が自らの見えない価値を掘り起こし、自らを定義し直し、未来の方向をつくる営みなのである。これは経営そのものである。

ここまで来ると、経営の意味もさらに深く見えてくる。
経営とは、見えない価値を扱う営みである。
そして今、その先まで言うなら、
経営とは、
新しい価値の基準をつくり、新しい世界の見え方を成立させる営み
でもある。

もちろん、すべての企業がそこまで大きな変化を起こすわけではない。
だが、本質的には、経営とは常に、何らかの意味で小さな世界創造を行っている。
顧客に何を問題として見せるのか。
何を価値として感じさせるのか。
それを決めること自体が、世界をつくることだからである。

勝つことの先へ

勝つことは大事である。
利益も必要である。
成長も必要である。
だが、それだけが最終目的ではない。
本当に強い戦略は、勝った結果として終わるのではない。
新しい基準が市場に残る。
新しい見え方が社会に残る。
新しい問題意識が顧客の中に根づく。
大きく言えば、世界が変わる。

そこまで行って、初めて戦略は本当に大きな意味を持つ。
だから、戦略を単なる競争技術として見るのは足りない。

世界は、基準によってつくられる。
だから戦略とは、新しい基準を創り、新しい世界を創造する営みなのである。
戦略とは、
新しい世界を現実にすること
でもあるのである。
だから私は、戦略を「世界創造」と呼びたい

本稿は、連載 『潜在価値の時代』 の第8回である。
ここでは、戦略とは単なる勝ち方ではなく、新しい基準をつくり、新しい世界を成立させる営みであることを見てきた。

その営みの中で、生成AIはどう活用するのか。
そして、そのとき人間と生成AIの関係はどうなるのか。
次回は、その問いに答えていく。

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