
2026年7月7日 20:30
前回、私は、潜在価値とは何かを整理した。
それは、単に目に見えないものではない。
まだ言葉になっていない。
当たり前すぎて価値と認識されていない。
あるいは、存在していても、まだ市場や顧客に十分に意味づけされていないもののことである。
そして、それは発見されるだけでは足りない。
定義され、構造化され、戦略化され、伝達され、実装化されて初めて現実の力になる。
だから、次に問われるのは、
では、それをどう開発するのか
である。
潜在価値は、偶然のひらめきで見つかることもある。
だが、それだけでは再現性がない。
一部の勘のいい人だけの世界になってしまう。
いままでは、そうだった。
私が長年考えてきたのは、そこをどう理論化するか、方法論化するか、だった。
つまり、潜在価値開発とは、思いつきではない。
見えない価値を発見し、言葉にし、戦略仮説化するための、体系的なプロセスなのである。
なぜ潜在価値は見つけにくいのか
そもそも、なぜ潜在価値は簡単には見つからないのか。
第一に、それは当事者にとって当たり前すぎるからである。
企業の中で長年続けてきたこと。
苦労せず自然にできていること。
いつも守っている基準。
そうしたものは、本人にとって価値というより日常である。だから、自分では見えにくい。
第二に、多くの企業が、見えるものからしか考えていないからである。
商品機能、価格、競合比較、市場規模、表面的な顧客ニーズ。
もちろんそれらは必要だ。
だが、それだけを見ていても、見えない価値には行きつかない。
見ようとしないから見えないということである。
以前私が潜在価値開発について講演した際、ある税理士の方から「先生の言うような潜在価値は、私にもあるのでしょうか。思いつきません」と質問されたことがある。
私はこう答えた。
「あなたは事業を継続できていて、お客様もいらっしゃるのでしょう。だったら、そのお客様に、なぜ私を選んでくれているのかを聞いてみてください。きっとあなたが考えていないような答えが返ってくると思いますよ。」
事業が成立している場合、そこには必ず何らかの価値がある。価値は目の前にあるのだ。
しかし埋もれている価値があるかもしれないとは思いもよらず、本人も見ようとしないから、それに気づかないだけなのである。
逆に見ようとすれば見えてくる。
第三に、見えない価値は、一つの質問で取り出せるものではないからである。
深く掘る必要がある。
別の角度から問い直す必要がある。
野菜はなぜ体にいいか、の根本的な問いは、メーカーからではなく、私の方から問題提起をした。メーカーにとっては、根本的過ぎて、死角になっていた。
和柄の意味についても、その企業の社員からは出てこなかった。外部の協力会社の社長のインタビューからやっと出てきた。
高級化粧品メーカーの開発の根本発想も一回目のインタビューでは、出てこずに、その後の研究者との雑談から出てきた。
つまり、潜在価値は対話の中で徐々に立ち上がるものなのである。
ここに、開発という言葉を使う理由がある。
埋蔵物を掘り当てるように、ただ取り出すのではない。
問いかけ、整理し、意味づけしながら、価値として立ち上げていく。
だから開発なのである。
潜在価値開発の出発点は「違和感」である
潜在価値開発は、どこから始まるのか。
多くの場合、出発点は、整理された事実ではない。
むしろ、違和感である。
なぜ、うちの商品は機能では説明しきれない支持を受けるのか。
なぜ、この顧客は価格だけではなく、こちらを選び続けるのか。
なぜ、自分たちは当たり前にやっているが、他社は簡単には真似できないのか。
なぜ、この市場は今の定義のままでよいのか。
なぜ、顧客は本当にそれを問題としているのか。
こうした違和感は、まだ価値そのものではない。
だが、そこには見えない何かが潜んでいる。
だから、潜在価値開発は、まず違和感を丁寧に扱うところから始まる。
つまり、潜在価値とは、違和感の中に眠っていることが多い。
多くの企業は、この違和感を雑音として消してしまう。見えるものしか見ようとしないから。
だが、潜在価値開発では、それを入口として扱う。
ここが大きな違いである。
問いによって掘り下げる
では、その違和感をどう価値へ変えていくのか。
そのためには中心にあるのが、問いである。
潜在価値開発では、最初から答えを出そうとしない。
むしろ、問いを変えながら、対象の奥へ入っていく。
たとえば、企業側に対しては、
- なぜそれを当たり前に続けてきたのか
- どこに妥協できない基準があるのか
- 他社にはないと思う点は何か
- 顧客から意外に評価されているのは何か
- 歴史の中でずっと守ってきたものは何か
といった問いを重ねていく。
顧客側に対しては、
- 何に違和感を持っているのか
- 何が言葉になっていない不満なのか
- 本当は何を求めているのか
- どんな意味づけが与えられると見え方が変わるのか
といった問いを重ねていく。
重要なのは、質問票を埋めることではない。
問いによって、問いを重ねていくことによって、まだ見えていない基準や意味を浮かび上がらせることである。
だから、このプロセスはアンケートではなく、対話になる。
発見しただけでは戦略にならない
ここで大事なのは、潜在価値は見つけただけでは戦略にならないということだ。
たとえば、
うちにはこんな良さが
顧客にはこんな潜在ニーズがある
市場にはこんな見落としがある
とわかったとしても、それだけではまだ素材にすぎない。
その素材を、
- どの価値を核にするのか
- どう表現するのか
- どの市場定義につなげるのか
- どの顧客問題と結びつけるのか
- 企業の唯一性としてどう立てるのか
まで上げなければ、戦略にならない。
つまり、潜在価値開発には二つの段階がある。
第一段階は、見えない価値の発見。
第二段階は、それを戦略仮説へ上げること。
この二つを分けて考えないと、
「面白い話が出た」で終わってしまう。
実際、多くのワークショップや対話型支援がそこで終わってしまう。
だが、本当に重要なのはその先である。
戦略化には、階層設計が必要である
では、どうすれば潜在価値を戦略仮説へ上げられるのか。
ここで必要になるのは、価値そのものを見つけることより、
その価値がどの階層で意味を持つかを定義することである。
私は、見えない価値をどの戦略階層で効かせるかを見極めるために、独自に開発した顧客意思決定の4階層理論を用いてきた。
- 第1階層:問題認識・選択
どのようなことを問題として認識し、自分の問題として選択するのか - 第2階層:カテゴリー選択
その問題を解くものとして、どのカテゴリーを選ぶか - 第3階層:コーポレート選択
そのカテゴリーの中で、どの企業が選ぶか - 第4階層:プロダクト選択
どの商品・サービスが選ぶか
この階層の意味は、上位階層で発見・開発した見えない価値が顧客に強いインパクトを与える優位性があるということである。
多くの企業は、第4階層のプロダクトレベルだけで戦っていることが多い。
商品の機能、価格、デザイン、使いやすさ。
もちろん、それは必要である。
だが、そこだけでは差がつきにくい。
だから。潜在価値開発とは、そことは違う上位階層で勝負する。
価値の戦略的配置である
たとえば、第1章で触れた缶コーヒーブランドの事例を思い出してほしい。
当時の市場では、豆の種類や製法といった商品属性、つまり第4階層の競争が中心だった。
だが私が着目したのは、そこではなかった。
缶コーヒーとは、日常の中でホッとひと息いれるためのものだ、というカテゴリーの意味である。
これは、商品の違いを語ったのではない。
カテゴリーの選ばれ方そのものを定義し直したのである。
つまり、第4階層ではなく、第2階層で戦ったということだ。
だからインパクトが出た。
商品機能の比較ではなく、缶コーヒーを選ぶ意味そのものを変えたからである。
ヤクルトレディの既存顧客へのアプローチ事例でも同じことが言える。
既存顧客に伝えたのは、第4階層の単なる商品説明ではなかった。
腸の健康という問題認識、腸の健康おける乳酸菌カテゴリーの価値、ヤクルトという企業の乳酸菌研究の深さを、ストーリーとして統合して伝えた。
そこでは、上位階層の第1階層から第3階層までの材料になるものを取り上げ、位置付け、繋げて、ストーリー化していた。
だから、顧客の心が動き、年間継続率や客単価という現実の数字まで動いた。
つまり、潜在価値を戦略化するとは、
上位階層の価値を発見することなのである。
問題の創造
さらに重要なのは、潜在価値開発は、既存の問題や既存のカテゴリーの中でどう勝つかだけを考えるものではない、ということだ。
潜在価値開発の本質は、1番インパクトのある最上位階層の問題そのものを創造することにある。
問題とは基準とのギャップである。
となると、新しい基準をつくれば、新しい問題が創造できる。
つまり、それまで問題として意識されていなかったことを、新しい基準を定義し、提示することによって問題として立ち上げるのである。
たとえばヤクルトは、健康の新しい基準として「腸の健康」という基準を提示してきた。
これは、単に商品を売る話ではない。
健康をどう捉えるか、というとき、腸の健康という新しい基準を提示し、問題を創り出したのである。
また医薬品メーカーは、しばしば「なになには病気です」と訴求している。
それまで曖昧だった症状をそれは病気という基準を提示している。解決すべき問題として認識してもらうためである。
これもまた、新しい基準の提示によって問題を創造していると言える。
新カテゴリーの創造
さらに、その問題を解決するものとしての第2階層のカテゴリーに新しいカテゴリーを創造することもできる。
これが実現したとき、戦略は単なる差別化を超え、新しい世界観を提示するものになる。
新カテゴリーは、技術革新から生まれることが多い。
たとえば、生成AIはAI市場の中に生まれた新しいカテゴリーであり、その背景には大きな技術革新がある。
しかし、新カテゴリーは技術だけから生まれるものではない。コンセプトメイキングによっても創造することができる。
新しい基準を定義し、新しい問題を創造し、それを解決するカテゴリーを提示すれば、それは新カテゴリーの創造になる。
その一例が、「潜在価値開発」である。
潜在価値開発では、「潜在価値」という戦略の核となる定義をつくり、戦略問題を捉え直した。それを解決する方法として、潜在価値開発という経営戦略の新カテゴリーを提示している。
潜在価値は、問いと構造によって戦略になる
ここまで来ると、潜在価値開発の方法はかなり明確になる。
まず、違和感を入口にして、問いを重ねる。
その中から、見えない価値を発見する。
次に、その価値を言葉にし、意味づける。
さらに、その価値を4階層のどこに効かせるかを設計する。
できうるならば、上位階層の問題そのものやカテゴリーそのものを創造する。
そこで初めて、潜在価値は戦略仮説へ上がる。
問いが価値を発見し、構造がそれを戦略に変える。
ここに、潜在価値開発の方法としての核心がある。
だから、潜在価値開発は、単なる発想法でもなければ、単なるインタビュー技法でもない。
見えない価値を、問いと構造によって、戦略化する方法論
なのである。
本稿は、連載 『潜在価値の時代』 の第7回でんある。
ここでは、潜在価値はどう開発できるのか、その基本構造を見てきた。
だが、ここでさらに問うべきことがある。
潜在価値を開発した先に、企業は何を手にするのか。
そして、それは単なる差別化と何が違うのか。
次回は、その問いに答えていきたい。
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