第3章「 潜 在 価 値 開 発 」と は な に か

「潜在価値開発」とは決してマーケティングに範囲を限定した理論ではない。埋もれていて潜在化している価値を発見し活用することである。従って「潜在価値開発」した潜在価値は本来、商品開発やビジネスモデル創造にも活用できる。

しかし本書ではあえてマーケティングにフォーカスし、潜在価値マーケティングとして

範囲を限定している。

その理由はなにか。前章でも述べたように実際、ビジネスモデルや商品そのものよりもマーケティングコミュニケーションに問題のある企業がほとんどだからである。

既に述べた罠に陥り、このことに気づいていないから仕方ないとも言えるが、目の前のマーケティングの問題と向き合うことなく、商品に逃げてしまう企業がほとんどだ。

もちろん、ビジネスモデルの革新や商品開発が常に必要であることは言うまでもない。しかし、その前にマーケティングコミュニケーションでまだまだやれることがたくさんあるのである。にもかかわらず商品に逃げてしまうのは問題である。

見えないものを見る―第3章       企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
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私たちが今までお付き合いした企業で「潜在価値開発」を行ってみると、クライアント

の担当者の口から「この商品はいらなかったですね」と苦笑まじりの声を聞くことも少なくない。

だからこそ本書では、本来なら必要なかった商品開発に労力をかけず、マーケティングコミュニケーションにおいて「潜在価値開発」を行うための理論とメソッドをお伝えするのである。

「 潜 在 価 値 開 発 」の 目 的

前章でマーケティングの目的とは真の「優良顧客づくり」であると述べた。対象顧客から優良顧客へとステップを踏んで関係を深めてもらわなければならない。

では、そのために必要なことはなにか。それこそが「潜在価値開発」の重要な役割である「顧客の心を動かすこと」、つまり態度変容を起こさせることである。言い換えれば、顧客の態度変容を起こさせる情報開発を行うことが「潜在価値開発」となる。

ここで大事なのが「顧客の心を動かす情報

【図7】顧客の態度変容を起こさせる情報
知らない

とはなにか」というものだ。これも「潜在価値開発」では明確に規定できる。顧客の心の動きで表現するとこういうものだ。

インパクト
大

「えー、知らなかった」(新知識)

重要である
重要である

「えー、すごい」(機能性の高さ)

「えー、そこまでやるの(」企業姿勢・行動)

「えー、今までなかった」(新たな価値・機能)

知っている

このような情報である。今まで顧客が知らないもので、知ったら驚かずにはいられない重要な情報こそが顧客の心を動かす。

「 潜 在 価 値 開 発 」の 戦 略 的 特 徴 と は

従来型マーケティング原理の限界を超え、企業が陥りがちな罠に陥らないための理論的・体系的なビジネス理論である「潜在価値開発」にはどのような特徴があるのか。

労多くして得るものが少ない「競争優位戦略」、苦労してつかんでも実態が曖昧な「消費者インサイト」では到達するのが難しい〝唯一性〞を顧客に認められる存在になるのが

「潜在価値開発」である。

「潜在価値開発」を構成する8メソッドの「創造のメソッド」「戦略のメソッド」「階層のメソッド」から、その特徴と中身を見ていこう。

「潜在価値開発」が実現するものはなにかというと、「新たな戦略目標」を設定し、「新たな戦略コンセプトとフレーム」によって、「新しい戦略領域」を生み出し、今までにない革新的戦略を創り出すというところにある。

1.新たな戦略目標                             ヘビーユーザーの意識構造づくり

2.新しい戦略コンセプトの創造                潜在価値の発見

11

3.新たな戦略フレームと戦略策定            戦略フレームと 4.優位性の新たな定義                                            唯一性の構築

の戦略領域

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
第3章
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5.戦略領域の拡張                             企業の潜在価値と問題・解決策マトリックス

新 た な 3 つ の 戦 略 目 標

「潜在価値開発」は従来のトライアルユーザーづくりを目標とするマーケティング理論と 戦略目標が根本的に異なる。ヘビーユーザーづくりを最終目標として、曖昧な顧客の意識 構造を破壊し、確固たるヘビーユーザーの意識構造をつくることを目標とするものである。

①へビーユーザーづくり

②曖昧な顧客の意識構造の破壊

③確固たるヘビーユーザーの意識構造づくり

①ヘビーユーザーづくり

20

1章でも述べたように「潜在価値開発」では、最初からヘビーユーザーをつくることを目標とする。マスマーケティングでは「トライアルユーザー」獲得を目標としているが、

20

ビジネスに真の利益をもたらすのは1:

の法則(1%の顧客で

%の売上)のヘビーユ

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ーザーであり、いかにヘビーユーザーづくりが重要かということである。

しかも「潜在価値開発」によって、自社の唯一性を認めてもらった真のヘビーユーザーは、行動だけではなくマインドもヘビーとなり他社や他ブランドへのスイッチを行わないのが大きな特徴だ。

②曖昧な顧客の意識構造の破壊

これもくり返しになるが、マスマーケティングをベースとしたマーケティングをしていると顧客の意識構造はいつまでも曖昧なままである。なぜなら、ヘビーユーザーになるための情報が不足しているからだ。

そのためユーザーリサーチをしても、曖昧な顧客の意識構造を知るだけで顧客とはそんなものと思ってしまう。

しかし、「潜在価値開発」を行って顧客をヘビーユーザー化できる「情報開発」をした

うえで、リアルな場面での顧客とのコミュニケーションによって、顧客の意識が劇的に変化する場面を間近に目撃すると、それまでの顧客像が一変する。

マスマーケティングによる顧客の意識構造は固定的なものではなく「潜在価値開発」で

破壊できるのである。

③確固たるヘビーユーザーの意識構造づくり

マスマーケティングでつくった顧客の意識構造を破壊した後、新たにどのような意識構造をつくるか。「潜在価値開発」のゴールは、前にも述べているようにコミュニケーションによってヘビーユーザーとなる階層化された意識構造をつくることである。

階層化された意識構造とは「階層のメソッド」の次の4つの意識階層を実現することである。

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階層のメソッド

第1階層「問題認識」        ⇩    問題の重要性の認識         需要創造戦略

第2階層「カテゴリー」    ⇩    カテゴリーの優位性の認識    カテゴリーマネジメント戦略第3階層「コーポレート」⇩    提供企業の信頼性                                                                             コーポレートブランド戦略 第4階層「プロダクト」    ⇩    商品サービスの優位性                                                                             プロダクトブランド戦略

ヘビーユーザーとはこれらを階層的・ストーリー的に認識していることである。つまり顧客が自分の抱えている「問題(ニーズや欲求)」に対して、自社の商品・サービスなどの「カテゴリー」に優位性があることを認識してもらい、「コーポレート」提供企業が信頼できる存在と認め、実際の「プロダクト」商品やサービスが欠かせないものと意識されるようにするのである。

ここは重要なポイントであるので1章で述べたマーケターの話をくり返しておきたい。過日、あるマーケターから、第1階層や第2階層へのアプローチは業界のトップ企業な らまだしもナンバー2以下の企業には難しいのではないかという質問を受けた。

私は次のように答えた。

「確かに従来のマスマーケティングの発想では難しいように見えるかもしれません。大規模な広告やPRが必要だと思いがちだからです。しかし、今は方法があります。情報を構造化して一人にすべてを伝えさえすればいいのです。一人ずつヘビーユーザーの意識構造に変えていくのです。ヤクルトのようにそれをリアル化できる企業もあります。

リアルに伝えることが難しくてもデジタルマーケティングの時代なら同じことが可能です。デジタルの本質は個別対応できること。つまり『一対一の対話』ができるということです。今の時代は、例えトップ企業のように大がかりな広告・PRができない企業でも第 1階層の需要創造や第2階層のカテゴリーマネジメントができる時代なのです」

なぜ階層的・ストーリー的な情報がヘビーユーザーをつくれるのか。商品・サービスが

購入される条件とヘビーユーザーの意識階層との関係性を見てみよう。

第3章

見えないものを見る―

企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する

「潜在価値マーケティング」とは

購入継続の条件と階層のメソッドの関係性
(購入促進条件)必然性普遍性時代性カテゴリー性自社先進性新しい解決策
人間の本性環境変化
第1階層第1階層第2階層
やる理由(歴史・理念) 第3階層
問題の重要度問題の重要度カテゴリーの優位性コーポレートの信頼性
発想新機能
第3階層第4階層
コーポレートの信頼性プロダクトの優位性
高品質性商品・サービスの機能                                   第4階層 プロダクトの優位性
(購入保障条件)信憑性成功実例権 威 性 歴史性関係性認知・理解・共感・信頼
第3階層  コーポレートの信頼性第3階層     コーポレートの信頼性第3階層     コーポレートの信頼性
第3階層
コーポレートの信頼性
(購入継続条件)満足度商品・サービス
第4階層 プロダクトの優位性第3階層 コーポレートの信頼性

テキスト ボックス: 購 入 継 続 の 条 件 と 階 層 の メ ソ ッ ド の 関 係 性テキスト ボックス: 購入を継続させヘビーユーザー化させるには、購入促進条件と購入保証条件と購入継続
条件の三つを満たさなければならない。
テキスト ボックス: 購入促進条件とは、なぜそのカテゴリーが必要なのかという必然性や、その商品が今ま
でにない新しさを持っているという先進性、レベルが高いと感じさせる高品質性を併せ持っていることである。
テキスト ボックス: 購入保障条件とは、具体的な成功事例や受賞という他者から権威付けられている権威性、
一過性のものではない長い歴史に裏付けられている歴史性などの信憑性、そしてすでに知
テキスト ボックス: られているという関係性などである。
購入継続条件とは、実際に使ってみての満足度である。
テキスト ボックス: このように「潜在価値開発」がつくる4階層の情報は、購入の促進・保障・継続の必要
条件をすべて満たすのでユーザーをヘビー化できるのである。
【図8】購入継続の条件と階層のメソッドの関係性

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見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは 第3章 117 116 新しい戦略コンセプト

潜在価値

の創造=「 潜在価値」

【図9】自社と顧客の潜在価値
自社
顕在価値

新しい戦略コンセプト創造の源になるもの。それこそ、これまで見えていなかった「潜在 価値」を発見することである。

顕在問題
潜在問題

私たちが定義する企業における「潜在価値」とは、大別すると次の二つである。

①埋もれてしまっている企業の強み潜在化した差別的優位性

②顧客の気づいていない問題潜在問題

企業の価値は潜在化する

私は前職のヤクルト本社時代に気づいたことがあった。それは「企業の価値は潜在化する」ということである。

たびたび述べているように、人は自分を客観的に見ることは難しい。企業も人の集まりであるから、自社を客観的に見るのが難しい。従って自分の価値=企業の価値に気づかずに埋もれてしまいがちである。

ビジネスやマーケティングコミュニケーションにおける企業の価値とは、自社独自の差別的優位性(現在価値)と、新しいビジネス機会の発見(未来価値)であるが、人間の本性からいずれも埋もれやすい(潜在化する)ものである。

これら潜在化している価値(潜在価値) を発見・活用(開発)することが、企業の拡大・成長のための継続的な差別的優位性をつくることにつながる。

ひと言で言えば「お宝は目の前にある」のである。気づいていないだけである。私はヤクルト時代に、この埋もれた潜在価値に気づき、それをベースとした戦略(当時は潜在価

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値開発理論の概念を構築する前だった)を実行することによって、大きな成果を上げるこ

とができた。

決して自慢話をする意図はないが、皆さんにも参考になることでもあるので、あくまで事実としてお伝えしておきたい。

ヤクルト時代、私は一貫してマーケティングを担当し、リサーチを通じて顧客と向き合ってきた。その中で企業の埋もれた潜在価値に気づいたのである。

「こんなものに価値があるとは」と社内の誰も思っていない、あるいは少数の社員が思っていても、それを今さら社内で価値共有しようと思わなかったものが「お宝」として眠っていたわけだ。

それらをリサーチで抽出し、効果を検証した上で、顧客の意識を変えることができるコミュニケーションステートメントをつくり上げたのである。

この潜在価値を発見してしばらく経った後、支店の営業責任者に異動になるとともに、販売子会社の取締役を兼務することになった。そのことによって販売子会社という格好のテスト市場を得たのである。

そこで販売子会社において潜在価値をベースにした戦略ですでに検証済みだった、顧客

をヘビーユーザー化できるコミュニケーションステートメントを活用し、顧客の年間継続率の向上を目的とする実験を行ったのである。

75

その結果は劇的なものであった。通常の年間顧客継続率は   %ぐらいであるが、潜在価

95

値開発をしたコミュニケーションでアプローチした顧客は継続率が   %に向上した。しか

10

も顧客単価も   %向上したのである。

商品がリニューアルしたわけでも、購買条件が変わったわけでもなく、埋もれていた

「潜在価値」を活用したコミュニケーションを行っただけである。

その後東京の本部に戻り、広告部長として商品全般の広告を担当することになった。 まず、低迷するロングセラーブランドの広告を手掛けることとなり、結果を申し上げる と、広告は店頭の売上が170%アップと大きな成果を上げた。プロモーションはTVC Mに絞って実施したので効果は明白であった。

その要因は、「潜在価値開発」の手法で徹底してその商品の潜在価値を引き出し、それを広告に反映させたことにある。通常広告制作の準備期間は半年程度であるが、このとき

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は「潜在価値開発」リサーチのために1年間の準備期間を取った。

もう一つは、これも低迷していた特定保健用商品を復活させようというプロジェクトである。このプロジェクトのポイントは、ヤクルトという企業にとって最大の資産である独自の販売チャネル「ヤクルトレディ」をどう活かすかであった。

それまで一度も試みたことがなかったダイレクトマーケティング手法を取り入れ、独自の販売チャネルとリアル媒体やネット媒体のすべてを融合させたコミュニケーション戦略を実施したのである。この結果、前年比200%と大きく売上を伸ばすことができた。 このように企業に埋もれている価値はかならずあるということだ。まずそれを発見し、 活用することがいかに大きな効果をあるかということを学んだのである。

情報的価値が埋もれやすい

商品価値      ①機能価値

②表現価値    ―    情報価値

③表現価値    ―    感覚価値

商品の価値は大きく分けると商品の性能そのものである「①機能価値」と、顧客のニー

ズや企業における開発発想などの情報である「②表現価値―情報価値」およびデザイン・映像・音楽など顧客の感覚に働きかける「③表現価値―感覚価値」の三つから成り立っている。根本的にはこの三つが統合されて商品価値となる。

これら三つの価値はそれぞれ顧客の心を動かすものである。①の機能価値や③の感覚価値は目に見えている顕在価値である。しかし②の情報価値は目に見えないものであり、埋もれやすいのである。本書では、特にこの埋もれやすい②情報価値に焦点を当てている。ただ、感覚価値も重要なものである。最終章の事例ヤクルトジョアでは、③の感覚価値の開発方法を取り上げているので参考にしていただきたい。

な ぜ 潜 在 価 値 に 気 づ か な い の か

それほど大きな効果をもたらす「潜在価値」になぜほとんどの企業が気づかないのか。理由の一つには、自分のことを客観的に見るのは難しいという人間の本性からくる要因が

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あるが、他には組織特有の要因もある。

《企業内コミュニケーションの特質》

企業内でのコミュニケーションは、かなり積極的なコミュニケーションを行っているように見えても、重要なキーワードの定義をまず議論・明確にし、前提を共有した上で議論されているケースはまずない。

同じキーワードを用いていてもお互いの前提や考え方が違っているのに、分かったつもりで話が進んでいく。このような状態であるから、いろいろ大事なものが明確に意識化されずに潜在化していくのである。この話を顧客企業も含め、各所でさせてもらうが、みんな「ハッ」としたような表情をして納得されることが非常に多い。

《部門間の考え方の違い》

価値をもたらすかもしれない社内仮説(潜在価値)が潜在化してしまう理由として部門

間の考え方の違いによる場合も多い。

研究開発から販売まで、その商品に関わるメンバーにインタビューを行うと研究開発側に重要なものが眠っていることが多い。なぜなら研究開発側の人間はそのことがマーケティングにとって有効な情報かどうか分からないことが多いからである。

また有効な情報であっても、それを難しい専門用語で語ってしまうため、マーケティング側が受け止めきれず消化できないことも少なくない。しかし、そこにある商品開発の発想やエピソードは消費者とのコミュニケーション上で非常に有効な情報であることが多いのである。また、それらが単に対象となっている商品だけでなく、全ての商品開発のベースとなっている発想である場合、顧客とのコミュニケーション上で非常に有効な情報であることが多い。

《戦略仮説も埋もれる》

20

あるクライアント企業では幹部社員    名ほどにインタビューを実施したが、その中に企

20

業の今後の戦略を語ってくれた社員がいた。それは   人ほど聞いた中でも最も有効な戦略

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に思えたので「その話を社長にしていますか?」とたずねた。ところが「いや、話はして

いない」ということだった。

この幹部社員は決して遠慮して話さないようなタイプの社員ではない。歯に衣を着せず何でも話をする社員なのである。そのような社員ですら自分の有効な戦略仮説を社内共有していなかったのである。

まして普通の社員ではなおさらだろう。かくして社内の戦略仮説は埋もれていくのである。また社員のほうで「これは社内で言っても仕方ない」と思って社内共有しないケースも多い。

考 え 方 そ の も の か ら 差 別 化 す る

従来のマーケティング理論は顕在的なもの(機能性・コスト・セグメンテーションなど)しか見ていなかった。そして常識的・合理的・効率的なものしか見ていない。それでは競合他社が考えていることと一緒である。

従って同じような領域で同じような戦いを強いられることになる。なぜなら発想の根本

が一緒であるからだ。ここから抜け出すには「考え方そのもの」が他と違っていなければならない。

「潜在価値開発」の発想は、従来のものとは根本的に異なる。潜在価値・潜在問題・非合理・非常識・非効率に目を向け、それらを超越する「独自の表現価値」「超非合理・非効率」「超常識」を実現しようとするのである。

従来の理論         顕在的                 効率的         合理的                 常識的潜在価値開発                 潜在的                 非効率                 非合理性      非常識

⇦                       ⇦              ⇦              ⇦

(潜在価値の発見)(超非効率性)(超非合理性)(超常識)

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従来のビジネス理論、マーケティング原理の領域(顕在問題・解決策あり)で戦う限り

次のような戦いになってしまう。

それは「早い・安い・うまい」である。これは時間短縮化・低コスト化・高機能化を争うまさにレッドオーシャンであり出口なき消耗戦である。

それを避けようと、マイケル・ポーターの競争戦略理論では、「コストリーダーシップ・差別化・集中化」を取るよう教え、マーケティング理論では「セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング」を明確にするよう教えられる。

しかし、それらはすべて誰もが分かっている顕在問題・顕在価値の空間の中、ちょっとだけ位置付けをずらし、正面競争を避けようとしているだけに過ぎない。

あるいはブルーオーシャン戦略も企業の顕在価値から「加える・引く・増やす・減らす」という方法を提示しているが、ここにも潜在価値という概念はなく、顕在価値の範囲にとどまっている。

「潜在価値開発」は問題の次元を顕在問題から潜在問題に変えて、違う戦略空間をつくり出す戦略であり、まったく別物の考え方をするものである。

11 戦 略 フ レ ー ム と                 の 戦 略 領 域

「潜在価値開発」は「潜在価値」という新しい戦略コンセプトを創造し、それに基づいた

唯一性創造の戦略フレーム(空間)をつくり出している。この戦略フレームは潜在価値開発の最も核である「創造のメソッド」である。

10

まずは、この戦略フレーム【図    】から唯一性創造の全体像をイメージしていただきた

11

い。ここには   の戦略領域が広がっている。

その構成要素は唯一性のための4つの要素である「独自の蓄積資産の活用」「新次元」「超

非合理」「超常識」が軸である。

「独自の蓄積資産」は「顕在価値」と「潜在価値」の2つに分かれている。

また、「問題」は「顕在問題」「潜在問題」「創造問題」の3つに分かれ、「解決策」は「すでにあるもの」「超常識」「超非合理」の3つに分け、問題×解決策の9マトリックスとな

11

っている。合計で   の戦略領域である。

11

の戦略領域のうち、既存戦略領域①②③が従来の競争戦略やマスマーケティングで扱

第3章

見えないものを見る―

企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する

「潜在価値マーケティング」とは

   唯一性(差別的優位性)
= 独自の蓄積資産の活用 + 新次元 + 超非合理 + 超常識
(真似できない)
(次元を変える) (真似したくない) (できない)
問題×解決策 マトリックス
独自の蓄積資産(真似できない)

テキスト ボックス: われてきた領域であり、それ以外の8つの領域は手つかずだったと言っていい。「潜在価テキスト ボックス: 値開発」はこの8つの戦略領域を新たに切り拓くものだ。
これからそれぞれの新領域について詳しく述べていくが、個々の話だけを取り上げると
テキスト ボックス: 「こんなことは自分もやっている」「聞いたことがある」と思う読者もいるかもしれない。
しかしそれは戦略化されていない個々の事例やノウハウのレベルに留まっているという
テキスト ボックス: 点が抜けている。重要なのは戦略フレームに落とし込まれ、意識化・顕在化され、そして
体系的に戦略化されていることである。
単なる個々の属人的なノウハウに留まっていては、再現性がなく活用しようがないとい
テキスト ボックス: うことである。実際、成功したマーケターならこれから述べることの一部は既に行ってい
るに違いない。だからこそ今までになかった戦略や表現をつくり出し成功しているわけで
テキスト ボックス: る。ただ、それらは個人の能力としてブラックボックスの中にある。
「潜在価値開発」はそのようなマーケティングの達人の〝秘密のノウハウ〞を顕在化さ
テキスト ボックス: ているといってもよい。【図10】新しい戦略フレーム=新しい戦略領域の創造

顕    在   既存領域① ◦商品・サービスの機能 ◦顧客、取引先 ◦販売実績 ◦販売組織、ネットワーク ◦特許 ◦設備(店舗、工場) 潜    在     新領域① ◦社風 コーポレートイメージストックブランドイメージストック ◦創業者 ◦歴史 ◦企業理念 ◦戦略発想 ◦開発の発想、エピソード ◦販売の発想、エピソード ◦生産の発想、エピソード ◦品質管理の発想 ◦技術力 ◦ノウハウ ◦実績(研究・受賞) ◦組織原理 ◦人材開発の発想  
  超非合理 (真似したくない) 超常識 (できない)   解決策 顕在価値 やりたくない できない ②新次元(次元を変える) 顕    在 潜    在 創  造問 題   既存領域②     新領域④   既存領域③ ◦高機能 ◦低コスト化 ◦時間短縮 ◦セグメンテーション ◦ターゲティング ◦ポジショニング ◦一見非合理・非効率なことをする ◦面倒なことをする ◦カッコ悪いことをする ◦業界の常識への挑戦 ◦矛盾の統合 ◦異質なものの組み合わせ     新領域②     新領域⑤   既存領域⑦ ◦潜在問題の発見 ◦提供価値の追求 ◦新しい定義をする ◦新カテゴリーを創る         新領域③     新領域⑥   既存領域⑧     技術的 イノベーション ◦新しい基準を創る ◦新しい目標を創る ◦新しい夢を創る ◦新しい世界を創る    

129                                                                                         128

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは 第3章 131 130 差 別 的 優 位 性 の 新 し い 定 義 =

唯 一 性 を 実 現 す る

ビジネスの成功要件として、最も重要なのは、言うまでもなく優位性である。

優位性をつくるには差別化が必要であるが、独自性があり、希少性がなければ優位性とはなりえない。そして優位性の究極は〝唯一性〞である。大事なのは、この唯一性をどうやって実現するかである。

企業が唯一性を構築するには

①真似できないこと

②気づかないこと

③真似したくないこと

④できっこないこと

を発見し実行することである。この中の一つでも実現すれば絶対的優位性=唯一性をつ

くることはできる。また①の真似できないことはこれだけで唯一性であるが、これらの要素を複合的に満たすことが実現できれば、唯一性となる。

実際の企業活動においてどのように実現するかというと、

①真似できないこと               自社の独自の蓄積資産を発見し活用する

②気づかないこと                  顧客の潜在問題を発見する(問題の次元を変える)

③真似したくないこと              面倒なこと・一見非合理・非効率なことをする

④できっこないこと                 世の中・業界の常識を超える

これらを「同時に行う」ことで企業の唯一性が構築される。

まず①の「真似できないこと」とは、その企業ならではのことであり、時間の蓄積で出来上がってきたものだ。例えば、創業者や創業何十年という歴史的なもの、エポックメイキングな出来事やエピソードはその企業独自のもので真似しようがない。

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②の「気づかないこと」であるが、企業も顧客も気づいていないことがかならずあるも

のだ。つまり、顧客の気づいていない問題、潜在問題を発見することである。

後に説明するが、顧客がそれまで問題と認識していなかったことでも「新たな問題」と して創造し、その解決策となる顧客の価値を提示できれば唯一性はつくれる。そうすれば、他社よりも早めの対応ができ、時間先行的な優位性をつくることができるからだ。

③の「真似したくないこと」は、面倒なこと、一見非合理・非効率に見えること、お金のかかること、時間のかかることなどである。これらは誰しも積極的に真似したくない。誰もやりたがらないからこそ唯一性がつくれる。

④「できっこないこと」とは、業界の常識を超えることである。いわゆるイノベーションを起こすことがそれにあたる。この部分に関しては従来から言われている優位性をつくる重要な要素である。

しかし、これがあまりに強調されすぎていることが逆に唯一性の構築を妨げている。 レッドオーシャン的な微細な機能差の追求か、それを超えていきなりイノベーションと

いう2択的な話になりがちなのである。そして微細な機能の差では優位性をつくれず効果

はなく、イノベーションはそもそもそう簡単にできるわけではない。そうすると手詰まりということになってしまう。

現実的に、①真似できないこと、②気づかないことの要素が忘れられていることが多い。実際に企業の方の話を聞けば聞くほど、本来であれば成功要因となる①②③の要素が手つ かずになっているのがよく分かるのである。

「潜在価値開発」では、分かりきっている顕在問題・顕在価値の次元にある競争優位性を超える「唯一性」を実現することを目指している。決して同じ次元で争わないのである。

戦 略 領 域 の 拡 張

企 業 の 潜 在 価 値 + 問 題 × 解 決 策 マ ト リ ッ ク ス

従来型ビジネス戦略、マーケティング戦略はみんなが見えている顕在問題の範囲におい

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第3章
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て、競合と同じ次元でいかに優位性の差異をつけるかの戦いだった。

  • 「早い・安い・うまい」の微細な機能差と価格差                  競争戦略
  • 範囲を絞る・独自の位置づけ            セグメンテーション・ポジショニング
  • いままでにない新しいものをつくるイノベーション                       イノベーション ここから戦略領域を「潜在価値開発」による唯一性の実現という考え方で、

①企業の蓄積資産を発見する                企業の蓄積資産活用

②気づかない問題を発見する                 潜在問題の発見

③問題を創造する                              創造問題

④非合理・非効率を超える                    超非合理

といったところまで拡張する。当然、競合とは戦略の次元が異なるため、同じ土俵で戦うことなく唯一性を獲得することができる。

このように「企業の埋もれた蓄積資産」と「顧客の気づかない問題」こそが潜在問題で

あり、これを発見するのが潜在価値である。

では拡張するそれぞれの戦略領域について個別に解説をしていこう。

①企業の潜在価値    ―独自の蓄積資産の活用

《既存戦略領域①    顕在的蓄積資産》

テキスト ボックス: ◦	商品・サービスの機能    ◦顧客・取引先    ◦販売実績    ◦販売組織
◦	ネットワーク   ◦特許    ◦設備(店舗・工場)
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《新戦略領域①    潜在的蓄積資産》

テキスト ボックス: •	社風    •コーポレートイメージストック   •ブランドイメージストック   •創業者
◦	歴史    ◦企業理念    ◦戦略発想    ◦開発の発想    ◦開発エピソード   ◦販売の発想
◦	販売エピソード   ◦生産の発想    ◦生産エピソード   ◦品質管理の発想    ◦技術力
◦	ノウハウ   ◦実績(研究、受賞)  ◦組織原理    ◦人財開発の発想

まず新戦略領域①として取り上げるのは、「潜在的蓄積資産」である。

こうして並べてみても分かるように、企業の価値は潜在化しやすいものである。顕在的な価値に比べて潜在的な価値のいかに多いことかを改めて思い知らされる。まずそれを発見することが「潜在価値開発」の最初の出発点である。

企業の顕在価値とは、いうまでもなく目に見えるものだ。「商品・サービス」「顧客」「取

引先」「販売組織」「設備(工場・店舗)」などである。一方、企業の潜在的価値とは、い

うならばこれらの顕在価値を創り出している元になるものである。

なにより「創業者」がいなければ企業は立ち上がっておらず、歴史がなければここまで企業が存続していないわけである。さらに企業の開発・生産・販売の考え方がしっかりしていなければ顧客の信頼は得られなかっただろう。しかし、時間が経つにつれて、それらは当たり前になり埋もれてしまうのである。

皆さんの中には、これらは本当に優位性につながるのかという疑問が少なからずあろうかと思う。しかし、実際にこれらの潜在価値を抽出して消費者の評価を取ってみると、顧客の心を動かす重要な情報であることが多いのである。ここであげたように潜在的蓄積資産は数多くあるが、その中でも特に重要なものだけを取り上げて述べてみたい。

開発の発想

特に「開発の発想」はもっとも有効な潜在価値であり、非常に顧客の心を動かす情報である。クライアント企業である化粧品会社の顧客や未顧客でリサーチをしたときもそうだった。

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
第3章
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138

その企業は今まで業界で解決できなかった問題にチャレンジしていくというフロンティ

アスピリッツをもっていることが潜在価値開発を行う中で浮かび上がってきた。

こうした開発の発想に顧客が共感すると、その企業に対する信頼度が急激に高まり、極端に言えばその企業の商品なら何でも買うという状態になったのである。このように商品の機能だけではない領域に優位性をつくれるものが潜在しているのである。しかもこれが他社が真似しようがない歴史的な経緯を持ったものであれば、唯一性の実現ができる。 この企業の場合はその発想が創業者と結びついていたため、まさに唯一性であった。

社風

社風ほど自分たちで自覚しづらいものはない。自覚しづらいから潜在化する。社風はコミュニケーション戦略に活かせるなどとは思えないので最も埋もれやすい潜在価値のひとつである。しかしこれを顕在化し表現化できれば、大きなコミュニケーションの武器となりうるのである。

6章の活用事例で詳しく述べるが、私たちが「潜在価値開発」でお手伝いしたクライアントに丸紅系の情報通信プラットフォーム企業でアルテリアネットワークスという会社が

ある。このコーポレートブランディングを支援したときのことである。

最初の打ち合わせをして、まず社員インタビューを実施するので対象者を役員・本部長

20

クラスの方から       人ほどを選定して、「インタビューのスケジュール組んでください」と

依頼した。それが週中の水曜であった。

私は、役職の高い人も多いため早期のスケジュール調整は難しいだろうと思っていた。ところが驚いたことに、翌週の月曜から1週間の期間でインタビューのスケジュール化が完璧にできていた。今までこんな会社はなかったのである。これはなんとスピーディな会社だと感動した。

さらに実際にインタビューをしてみると対象者は例外なく非常に協力的で率直に意見を聞かせてくれたのである。このスピード感と柔軟な感触から、私の中には「しなやか」という言葉が浮かび上がってきた。そしてこの言葉は、コーポレートブランディングを進めていく上で、最も重要なキーワードとなったのである。

こうした社風は企業の目に見える顕在価値をつくりだしている根源ともいえる潜在価値である。しかしそのようなことは自分達で自覚することは難しい。従って表現されることもない。このような重要なものが表現化されず多くの企業で埋もれているのである。

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは 第3章 141 140 「 生 産 の 発 想 」と い う 潜 在 価 値

野菜飲料メーカーであるカゴメは皆さんもよくご存知であろう。それでは、次のような事実をどれだけ認識されておられるだろうか。

カゴメではトマトジュースを生産するにあたり、原材料確保と農家の安定経営のために農家と全量買い取りの契約をしている。これは単に、その時々の安い原材料を調達するという効率だけを考えた発想ではなく、むしろ農家との長期的な信頼関係を重視した考え方である。こうした企業の生産・調達における根本発想を消費者調査で評価してみると、商品の機能以上に評価されるのである。

このように消費者は単に商品の機能だけでなく、企業の発想、哲学を評価するのである。もちろん企業の哲学などに関心を持たない顧客もいるが、ヘビーユーザーとなりうるの

はどちらの顧客であろうか。それは自明なことではないかと思う。

組 織 原 理 と い う 潜 在 価 値

to

組織を動かす「組織原理」は、B    Cのコミュニケーションではあまり有効ではないが、

to

B    B企業においては有効に機能する場合がある。

例えば、京都の世界的分析・計測器械メーカー「堀場製作所」にはビジネスオーナー制

度というものがある。これは一見ブランドマネージャー制に近いように見えるが、まったく仕組みが異なるものだ。

ブランドマネージャー制ならば大体それなりの予算と組織があるが、ビジネスオーナーには「予算もなく、部下もおらず、命令系統もない」。知恵と情熱だけで組織を動かせ、ということなのである。実に強烈な組織原理ではないだろうか。

担当させられた社員にとっては大変な試練であるが、実際にビジネスオーナーにお会いしてみると、いずれも腹の座った猛者に成長していた。人材を育成するための強烈な組織原理であり、このことを「堀場製作所」の顧客にお話しすると決まって「すごい会社ですね」と評価が高まるのである。

第3章

見えないものを見る―

企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する

「潜在価値マーケティング」とは

テキスト ボックス: つまり顧客にとっては、他では真似のできない強い組織原理で鍛えられた社員がいるこ
とは、自分たちの課題解決や要望を満たしてくれるであろうという期待に変わるからであ
テキスト ボックス: る。 テキスト ボックス: 潜 在 価 値 開 発 の 領 域
問 題 × 解 決 策 マ ト リ ッ ク ス
テキスト ボックス: ビジネスは社会的問題解決と考えることもできるが、「問題」と「解決」を分けて考え テキスト ボックス: るほうが戦略的な選択肢は広がる。 テキスト ボックス: 問題領域―    既存戦略領域②「顕在問題」・新戦略領域②「潜在問題」・新戦略領域③「創
造問題」
テキスト ボックス: まず縦軸の「問題」の領域であるが、問題は「顕在問題・潜在問題・創造問題」に分け【図11】問題×解決策マトリックス

テキスト ボックス: 顕    在 テキスト ボックス: 潜    在
問    題
テキスト ボックス: ②新次元(次元を変える)問題×解決策 マトリックス

 超非合理 (真似したくない)超常識 (できない)
解決策
顕在価値やりたくないできない
   
  既存領域②    新領域④  既存領域③
◦高機能 ◦低コスト化 ◦時間短縮 ◦セグメンテーション ◦ターゲティング ◦ポジショニング◦一見非合理・非効率なことをする ◦面倒なことをする ◦カッコ悪いことをする◦業界の常識への挑戦 ◦矛盾の統合 ◦異質なものの組み合わせ
    新領域② ◦潜在問題の発見 ◦提供価値の追求 ◦新しい定義をする ◦新カテゴリーを創る    新領域⑤  既存領域⑦
    新領域③    新領域⑥  既存領域⑧     技術的 イノベーション
◦新しい基準を創る 
◦新しい目標を創る 
◦新しい夢を創る 
◦新しい世界を創る 

テキスト ボックス: 創    造143                                                                                         142

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
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られ、通常はほとんどの人が顕在問題しか意識していない。

「顕在問題」とは、すでに業界の誰もが問題と認識していること。例えば飲料業界なら、健康的機能・嗜好的機能ということになる。

「潜在問題」とは、顧客も企業も認識していない問題。これは後ほど詳しく説明したい。さらに「創造問題」とは、問題は存在するだけでなく、創り出せるものであるというこ とだ。

既 存 戦 略 領 域 ②       目 に 見 え る 顕 在 問 題

  • より優れたものをつくる                                         高機能
  • コストを安くする                                                低コスト化
  • 時間が短縮できる                                             時間短縮
  • 対象範囲を絞る                                               セグメンテーション
  • 誰の、どんな時、どんな問題                                  ターゲティング
  • 既存の選択基準の中で独自の位置づけをつくる           ポジショニング
  • 見えているものを変える                                       加える   引く   増やす   減らす

もっとも扱いやすいのは「顕在問題」であるが、目に見えるものだけに誰しも意識している問題である。そうなると勝負は「早い=時間短縮」「安い=低価格」「うまい=機能が高い」ということになる。

この領域はいうまでもなくレッドオーシャンの消耗戦である。この中で圧倒的に勝ち抜けるというのならそれでもよいが、そうでないのであれば戦略領域を変えることが必要である。

また、この領域のなかで範囲を絞ったり(セグメンテーション・ターゲティング)、独自の位置づけ(ポジショニング)ということが考えられるが、戦略領域を変えるということと比べると効果は低いと言わざるをえない。

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは 第3章 147 146 新 戦 略 領 域 ② ③              問 題 に 対 す る 深 い 洞 察 と

新 し い コ ン セ プ ト メ イ キ ン グ

問題の新次元である新領域②「潜在問題」と新領域③「創造問題」は潜在価値開発の最も重要な戦略領域である。新領域①の「潜在的な蓄積資産」の抽出は社員インタビューによって発見するわけだが、これは発見すればいいだけのこととも言える。もちろん埋もれているものを発見するのは簡単ではない。

しかし新領域②「潜在問題」と新領域③「創造問題」は埋もれたものを発見するというだけではない。より深い洞察と創造が必要となる。収集した情報に基づいた問題に対する深い洞察と新しいコンセプトメイキングが必要となる

そしてそれをさらに深掘りしていくとコミュニケーションの革新のみならず商品開発やビジネスモデル革新につながるものも見えてくるのである。

新 戦 略 領 域 ②            潜 在 問 題 の 発 見

  • 気づかない問題を発見する         潜在問題の発見
  • 提供価値の本質を追求する        提供価値の本質追求
  • 新しい定義をする                    カテゴリーの新定義
  • 新しいカテゴリーを創る               新カテゴリーを創る(ブランディングの究極)

では「潜在価値開発」において重要な「潜在問題」とはなにか。

問題は「顕在問題」「カテゴリーの潜在問題」「カテゴリーを超える共通の潜在問題」の三層構造になっている。

例えば化粧品で言えば、顕在問題とは「乾燥」「しわ」「シミ」などの明確に自覚できる問題であるが、より顧客を深く探っていくと、次のような問題が潜在していることが分かる。

「自分の肌のことが本当は分からない」。そのために「自分のスキンケアが正しいかどう

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か自信がない」「ほかにもっと自分に合っているものがあるのではないか」というような、

化粧品で直接解決したい問題を超えるカテゴリー的な潜在問題があるのである。

さらにはカテゴリーを超えた潜在問題として、「自分のことをよく分かっているプロフェッショナルにすべてを任せたい」という問題、ニーズがある。このような「潜在問題」をしっかり把握できている企業はそう多くない。

カテゴリーを超える共通の「潜在問題」の例を挙げておこう。エステのヘビーユーザーのリサーチをしたときのことである。

リサーチの目的は半年前にエステのコースを一新し、価格も値上げしたため、それをユーザーがどう評価しているかを知るためであった。そこで「今どのコースをお使いですか?」と聞いたところ、ユーザーから思いもよらない答えが返ってきた。

「分からない」というのである。つまり顧客は自分の担当の信頼できるエステティシャンにすべてを委ねていて、自分がどんな内容のコースを受けているのか詳しく知ろうともしなかったのである。

男性の場合、エステではピンとこないかもしれないのだが、例えば料理店・居酒屋など

に行くときのことを考えれば同じような「潜在問題」が見えてくる。

料理店・居酒屋を選び、この店で大丈夫なのか、どの料理がいいのかといちいち考えるまでもなく、理想は「お任せ」である。自分のことをよく知っている店主にすべてを任せて、何も言わなくてもうまい料理が出てくるというのが潜在的な欲求であり「問題」なのである。

つまり、究極のニーズは「自分のことをよく分かってくれているプロフェッショナルにすべてを任せたい」ということだ。

これは属人的要素の強い居酒屋やエステなどの高額商品に限らず、本来どんなカテゴリーにも当てはまると思われる。鍵となるのは、自分(顧客)のことがよく分かってくれているそのカテゴリーのプロフェッショナルと思われるかどうかである。

顧客は、自分の抱える問題や欲求に該当するカテゴリーのプロフェショナルを潜在的に探していて、そこにぴったりと当てはまる存在が見つかれば「すべて任せて自分では考えたくない、悩みたくない」と思っている。それこそが顧客の「潜在問題」であり、潜在ニーズなのである。

ネット時代となり、情報は幾何級数的に増加し溢れかえっている。顧客にとっては十分

見えないものを見る―第3章       企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
【図12】潜在問題の構造
化粧品の場合
顕 在 問 題
乾燥・シミ・しわ
カ テ ゴ リ ー 潜 在
問
題
自分の肌のことが分からない自分に合うものが分からない自分のケアが正しいどうかが分からない
共 通 潜 在 問
題
どの情報を信頼していいか分からない
不安心理⇩不安回避欲求⇩依存欲求⇩専門家に任せたい
不安から逃れたい
頼るものが欲しい
すべてを委ねたい
151
150

な情報があり、その情報を活用して最適な判断ができるはずだか実際はどうだろうか。

私が、数多くのリサーチによって顧客の声を聴く限り、逆の様相が見てとれる。顧客はこの情報洪水の中で溺れているのだ。もちろん、こうした多くの情報を使いこなしている人もいないわけでない。しかしそれはごく少数である。

大半は情報洪水で溺れて助けを求めている。どの情報を信じていいのか分からず、心の奥底には不安が渦巻いているのである。不安から逃れたい。そのために誰かに頼りたいと思っている。そうした依存欲求は強くなっているのだ。そのためエステのヘビーユーザーのように担当のエステティシャンにすべてをお任せしたいのである。根本のニーズはそのような不安心理からくる依存欲求にも裏付けられているということだ。

潜在問題はリサーチをしていても顧客の言葉として直接的に出てこない場合もある。リサーチにおける顧客の声から洞察して抽出するという場合が多い。このあたりは消費者インサイト論と重なる部分ではある。

このようなカテゴリーの共通の潜在問題は消費者の言葉として出てくるわけでない。消費者の反応から洞察したものである。それも一つのリサーチからではなく、いくつかのリ

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サーチの情報から洞察したものであり、その洞察をユーザーリサーチによって検証したも

のである。洞察はあくまで仮説であり、検証が必要なのである。

提 供 価 値 の 本 質 を 追 求 す る

「潜在価値」は「顕在価値」に比べて、より本質的、根源的な価値であるとも言える。すなわち、そこにアプローチすることによって表面的提供価値にとどまらず、新しい戦略を生み出すことにつながる。提供価値の構造とは「手段・機能・問題解決・目的」の4段階に分かれる。

30

例えば、野菜ジュースでいう商品とは「手段」であり、「機能」は「                                                                                       種の野菜を摂取

できる」、「問題解決」は「野菜不足を補う」、目的は「栄養のバランスを取って、健康を

維持する」ということである。

化粧品であれば、商品は「手段」であり、「機能」は「肌の保湿」、「問題解決」は「乾燥肌の改善」、「目的」は「美しくなる」ということであり、なぜ美しくなりたいかと言え

ば「自信を持って生きられる」ということだ。

このように手段としての商品だけにとらわれるのではなく、機能を超えた「真に解決したい問題」や「本当に実現したい目的・目標」を追求し明確にすれば、顧客に伝える言葉は変わってくるはずである。

また提供価値の本質を追求していくと新しい提供手段が必要になってくる場合もある。それは新領域⑤「潜在問題」×「真似したくないこと(面倒なこと)」への移行である。ここで前職のヤクルトであった例を紹介したい。

乳酸菌飲料の目的は腸の健康を維持することであるが、いくら乳酸菌飲料をしっかり飲んでいても、まったく身体を動かさないという生活習慣では腸の健康は維持できない。そこで、顧客の腸の健康維持のためにウオーキング教室を企画したところ、多くの顧客の応募があった。すると顧客から、

「ヤクルトさんはヤクルトを売るだけでなく、そこまで考えてくれているのね」

という声をいただいた。確かに手間のかかることではあるが、顧客のヘビーユーザー化に

大きく寄与することになったのである。

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提供価値の本質を追求することは、コミュニケーションの革新さだけでなく、ビジネス

モデルの革新につながることにもなるのである。

手段(商品)      野菜ジュース                         化粧品

30

機能                    種の野菜が摂れる                肌の保湿をする

問題解決            野菜不足を補う                     乾燥肌問題を解決する

目的                 生活習慣病を予防する             美しくありたい

目標                 健康で元気でありたい               自信をもって生きたい

新 し い 定 義 を す る

「潜在価値」を探り出し「潜在問題」を発見するために、言葉の新しい定義をすることも重要である。従来カテゴリーにとらわれずにカテゴリーの定義をし直すことによって、新たなコミュニケーションの可能性が広がるのである。

企業の中で、同じ言葉を使って会話していてもそれぞれの考えていることが違っている

ことは非常に多い。通常、社員同士の会話では言葉の定義を明確にすることはせず、分かったつもりで会話していることがほとんどである。従って言葉の定義は極めて曖昧なのである。

また、顧客も分かっているだろうと思い込み、十分な説明をしていないこともある。 私も「潜在価値開発」の際にクライアント企業において多くの社員の方にインタビュー を行う。しかし、それぞれの事業の専門家ではないので、分からない言葉があれば当然質問するわけである。

「○○とは、どういう意味ですか?」

と聞くと、その事業に携わる人たちにはあまりに当たり前に皆が使っている言葉・用語であるため、明確に定義しておらず言葉に詰まったり、人それぞれいうことが違ったりすることが多い。

従って、「この言葉は明確に定義したほうがいいですよ」とアドバイスすることも度々

ある。

このように人によって定義がバラバラな言葉はカテゴリーを表す言葉が多い。だからこ

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そ従来カテゴリーにとらわれずに、カテゴリーの定義をし直すことによって、新たなコミ

ュニケーションの可能性が広がるのである。

提供価値の追求から、カテゴリーの定義が変わる場合もある。例えば、化粧品は美しくなるためのものという定義がある。では美しくなるのは何のためか。それは女性が自信を持って生きるためである。つまり化粧品は女性が自信を持って生きてもらうためのものと再定義することもできる。

そうするとコミュニケーションも変わってくる。単に機能を訴求するのではなく、自信をもって生きるためにはというコミュニケーションも必要となる。また「自分らしく生きるためのもの」と定義することもできる。自分の本来持っている肌のチカラを活性化するということだ。

そうした考えに基づいた新商品開発をすれば、新領域⑦「潜在問題」×「超常識」への移行にもなる。新しいカテゴリーの定義は、新しい商品開発というイノベーションを生み出すきっかけにもなりうる。

新 カ テ ゴ リ ー を つ く る

新カテゴリーをつくることは、非常に重要なコミュニケーション開発となる。また、究極のブランディングでもある。従って、新カテゴリーをつくることをブランディングと結び付けてお話ししたい。

ブランディングという言葉は、マーケティングに携わる人間にとって、もっとも使われている言葉であろう。

しかし「ブランディングとはなにか」と聞かれて、明確に答えられる人はどのくらいいるだろうか。改めて自分で振り返ってみても、意外に曖昧なのではないかと思われる。 既に述べたように、何事も明確でないものは実現できない。ゴールがはっきりしていな ければ辿りつくことはできないのである。

「ブランディングとは、対象顧客に自分の思ってもらいたいように思ってもらうこと」である。では、どのようにして「思ってもらいたいように」思ってもらえばいいのか。よく言われることに、「○○○なら●●●」と思ってもらうのが、ブランディングだという考

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えがある。

まさにその通りではある。●●●は、ブランド名・企業名であるため明確である。では

○○○とはいったい何だろうか。

私の前職でいえば○○○に入るのが「乳酸菌飲料なら」となる。つまり「乳酸菌飲料ならヤクルト」と対象顧客に思ってもらいたいわけだ。

これが、いわゆるブランディングが完成している状態だが、この意味するところは非常に深い。

「ヤクルトは乳酸菌飲料のパイオニアであり、カテゴリーナンバーワン商品である」ということまで含まれている。つまり、「カテゴリーのナンバーワンである」と顧客に認識してもらっていることになる。

そうするとブランディングの定義とは「カテゴリーのナンバーワンと思ってもらうこと」になるのである。

しかし、カテゴリーのナンバーワンと思ってもらうのは容易ではない。まして既に出来 上がっている既存カテゴリーでは不可能に近いことが多い。そうであるなら目指すことは、

「既存のカテゴリーでナンバーワンを獲りにいくのではなく、新しいカテゴリーをつくり、

そこでナンバーワンになる」というものだ。

さらに言えば「自社がナンバーワンになれるカテゴリーを創る」ということである。つまり、ナンバーワンになれるように、範囲設定をする、カテゴリーを決める、ということである。

全国でナンバーワンは難しくとも、どこかの地域でナンバーワンになることや、サブカテゴリーを創りそこでナンバーワンになる、などである。

古典ではあるが典型的な大成功事例はビール市場において「ドライビール市場」を創り、

そこでナンバーワンとなった「アサヒ・スーパードライ」が挙げられる。

私の会社「ビモクリ」でも目指すべきところは共通している。だからこそ「潜在価値開発」という新しいビジネス理論のカテゴリーを創ったわけだ。自分で創ったカテゴリーなのだから、ナンバーワンに決まっている。

「潜在価値開発なら、ビモクリ」となるわけである。そして「ビモクリ」を認知してもらうのではなく、「潜在価値開発」というカテゴリーを認知してもらうのである。

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つまりブランディングの定義は、「ブランディングとは、自分がナンバーワンになれる

カテゴリーを創り、これを認知してもらうことである」と言える。

このように「新カテゴリーを創る」ことは、究極のブランディングであり、もっとも重要なテーマであり、目標なのである。

新 戦 略 領 域 ⑤            問 題 は 創 造 で き る

〈問題の創造〉

  • 新しい基準を創る                    問題の創造
  • 新しい目標を創る                    ビジョンの創造
  • 新しい夢を創る                       夢の創造
  • 新しい世界を創る                    新世界創造

「潜在問題」を発見することは「潜在価値開発」にとって重要であるが、顧客のより深い

ところにまでコミュニケーションする必要があり、簡単ではない部分もある。ならば、困難に立ち向かっていかなければ「潜在問題」には辿り着かないのかというと、そうではない。なぜなら「問題は創造できる」からである。

ただし、そのためには「問題の本質」を理解できていなければならない。では、そもそも「問題」とは何だろうか?

この問いに即答できる人は案外少ない。シンプルでありながら根本的なこの問いに答えるのは誰しも難しいのである。

私が講師をしている「潜在価値開発」セミナーでも、かならず同じ質問を受講生の皆さんに投げかける。すると、ほとんどの方が言葉に詰まってしまう。「問題とは、困っていること」と答える方も少数だがおられる。

もちろん、それも間違ってはいない。だがそれでは「顕在的」な問題の領域を完全に抜け出せていない。

本来の「問題」の定義は「基準とのギャップ」である。意識されている、されていないは別として、何らかの基準があり、その基準とのかい離(ギャップ)があるから、問題と

マイナスのギャップ問題(不快の解消)

感じるのである。

【図13】2つの問題を生む「基準とのギャップ」
プラスのギャップ問題(快の充足)

「困っていること」も、なにかうまくできるはずという基準からみてうまくできないので困っているわけである。

50

例えば、学生時代に学力テストを受け、自

40

分の偏差値が

だったとする。

が標準であ

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第3章
40
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162

るから、      は標準以下となり「問題」という

50

ことになる。標準である          という基準があり、

その基準とのかい離=ギャップがあるために

〇
〇

問題ということになる。

+
-

〈不快の解消問題・快の充足問題〉

標
準

基準とのギャップから生まれる問題は2種類ある「。不快の解消問題」と「快の充足問題」

である。

基準以下で基準とギャップがある場合は、マイナスのギャップ問題ということになり、

これは非常に不快であるため「不快の解消問題」ということになる。

一方、基準以上のこと、つまりやりたい夢や目標などの達成を求めていくことは、先ほどと違い不快な感情があるわけでなく、よりプラスにするという問題であるから快を求めていくことになり、これは「快の充足問題」ということができる。

みんなより成績が劣っているものを追いつきたい、であるとか、みんなより肌が汚れているのを解消したいのは「不快の解消問題」であり、資格を取って評価されたいとか、人より早くトレンドのメイクを取り入れたいというのは「快の充足問題」である。

基準をつくれば 、問 題が発生する

頭の回転が速い方は気づかれたかもしれないが、何らかの基準とのかい離、ギャップが問題だとすれば「問題は創る」ことが可能だということになる。

つまり、これまでなかった「新たな基準」を提示すれば、そこに「新たな問題」が発生

するわけである。問題が発生すると、そこには新たに解決すべきビジネスも生まれる。基準をつくれば問題=ビジネスは創造できるわけである。

新しい法律ができたり、法律が変わったりするとビジネスチャンスが生じるが、それも新たな基準ができたことによって、基準とのギャップから「問題」が生まれ、その問題を解消するビジネスが生まれるのと同じ原理だ。

個人情報の保護に関する法律など企業コンプライアンスを強化せざるを得ない新たな法律ができたことで、基準とのギャップ解消を企業は迫られ、そこにITセキュリティ関連などのビジネスが生まれたのである。

ただし、そういったものには多分に他力本願の要素がある。マーケターであれば、自らが主体的に「基準」を創り、「問題」を創ることを考えなければならない。

そういったことを意識的に実践しているのが、医薬品業界である。

「○○は病気です。お近くの病院でご相談ください」という新しい基準づくりを常にやっている。また、基準を変えることについても意識して行っているように見える。

代表的な例が「高血圧」の事例である。現在、高血圧の基準は、日本高血圧学会によっ

10

て最高血圧(収縮期血圧)140以上を高血圧の基準としているが、

以上であった。

年以上前は180

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その当時、降圧剤市場の売上は約2500億円だったが、正常な最高血圧の基準値を

140以下に変えたことによって1兆円に伸びたのである。これが「良い事例」と言えるかどうかは疑問ではあるが、発想という点で見て「新しい基準を創る」「基準を変える」ことがビジネスを創るという典型的な事例である。

このように、常に新しい基準を創れないか、今までの基準を変えられないかということを考えてみるのは、新しいビジネスをつくり、大きな飛躍を可能にする方法であることは間違いない。

新 し い 目 標 や 夢 を つ く る

新しい基準をつくるというのは、問題を創造する基本的方法であるが、やや論理的なやり方である。しかし新しい目標や夢をつくるというのはより感情を刺激する内容である。

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かつてアメリカが掲げた「月に行く」というような新しい目標は心踊る目標であり、人

類の新しい夢であった。現代においては訓練された宇宙飛行士だけはなく、普通の人が宇宙旅行をするという新しい夢が生まれている。これほど壮大な目標でなくても新しい目標や夢は新しい問題を創造するものである。

新 し い 世 界 を つ く る

新しい世界をつくるとは、例えばディスニーランドのようなものである。これはまさに 大人も楽しめるテーマパークという新しい世界をつくっているという典型的な事例である。ただし、ディスニーランドにおいても具体的・物理的なものだけが新しいものをつくる

わけではない。新しい価値観や哲学の提案が新しい世界をつくるといってもよい。

これは広告業界でよく使われる「世界観」という言葉ではない。世界観という言葉は、広告の現場で安易に使われすぎている。ただの雰囲気レベルを世界観と称しているケースがほとんどである。本当に世界をつくりだしているのかという不快感を禁じ得ない。やは

り根底に思想や哲学がなければならない。

最近、新しい世界をつくっているなと感じた面白いプロジェクトを知った。「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトである。これは認知症の方がウエイター・ウエイトレスをしている料理店であり、普通の料理店であれば注文を忘れたり間違えたりするとクレームになるが、この料理店の場合は注文を間違っても誰もクレームを言わない。むしろそれを許容し、ハプニングを楽しむという料理店である。これもまさに認知症患者との共存や社会進出を思想とする新しい世界をつくっているということではないだろうか。

新しい世界というと大げさなものを考えがちだが、こんな身近なところにも思想と哲学

さえあれば新しい世界はつくれるのだ。

解決策領域―新戦略領域④「超非合理」・既存戦略領域③「超常識」

ここからは「問題×解決策マトリックス」の横軸「解決策領域」についてお話していきたい。この領域は本来、商品開発やビジネスモデル開発の領域である。マーケティングの領域を超えてはいるが、今まで述べてきた縦軸の問題領域を追求していくと解決策の領域

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に展開していくことでつながっているためお話ししておきたい。

解決策は「顕在価値」「真似したくない(超非合理)」「できっこない(超常識)」の三つのレベルに分かれる。

超常識はビジネスの新たな提供価値を創造するバリューイノベーショシであり、超非合理とはビジネスの提供プロセスを革新するプロセスイノベーションと言い換えることもできる。

新 戦 略 領 域 ④

「 超 非 合 理 」真 似 し た く な い こ と を す る

  • 一見非合理・非効率に見えることをする   真似したくないことをする
  • 面倒・カッコ悪い・怖いことをする
  • 時間のかかることをする
  • 大きな投資が必要なことをする

「潜在価値開発」によって唯一性を獲得するための解決策として「超非合理」で真似した

くないことをするのも効果的である。

真似したくないこととは「一見非合理・非効率」であり「面倒」で「カッコ悪い」ことだ。そうした典型的な事例として、ネット通販の巨人「アマゾン」が挙げられる。

アマゾンは創業初期「ネット企業なのに自前の物流倉庫を持っている」という「一見非合理・非効率」に対して「ネット企業(Eコマース)は身軽さが武器であるのに大きな固定費のかかる物流倉庫を自前で持つのは非合理だ」と言われてきた。

20

だが   年後の現在はどうなっているだろうか。自前の物流倉庫の存在によって誰もが知

る大発展を遂げているわけである。

また、「面倒なことをする」例として楽天の事例がある。黎明期のネットモールはネット上に場所だけを用意して、あとは出店企業に好きなようにやってもらえばよいという考え方が多かった。

その中で楽天は、一店一店手間をかけてサポートを行ったのである。つまり普通ならやらない面倒なことをした。その結果、ネットモール黎明期に開設されたモールで現在まで残っており、かつ成長を遂げているのは楽天だけになっている。

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
第3章
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私は今の会社を創業以来、さまざまな企業で数百人の社員の方のインタビューをしてき

た。その社員の方が成功した事例を聞くとほとんどがこの領域に入る。

商品そのものや技術的なバリューイノベーションではなく、ビジネスプロセスのイノベーションをしているケースが非常に多い。ビジネスプロセスを「えーここまでやるの!」というほど突き詰めているのである。面倒なことをやり切っているといってもいい。技術的なイノベーションなど一朝一夕には起こらないわけで、革新を起こしていくとなれば必然的にこの領域となるのである。

既 存 戦 略 領 域 ③

「 超 常 識 」で き な い と 思 っ て い る こ と を す る

  • できないと思っていることをする                  業界の常識への挑戦
  • 一見矛盾するものを統合する                  矛盾を統合する
  • いままでにない新しいものをつくる               技術的イノベーション

ポーラ化粧品のAPEXというブランドは化粧品業界の常識を超えるだけでなく、製造

業の常識も超える商品である。

精緻な肌分析を行い、そのデータに基づいて個別の化粧品をつくるのである。組み合わせとしては256万通りの処方があり、まさにオーダーメイドといってよいと思う。

従って事前のサンプルというものはない。初めに数種類の商品を用意して、結果としてそこに落とし込んでいく「似非個別対応商品」とは根本的に異なる。APEXというブランドは、このような本当に常識を超えた個別対応を実現しているのである。

なぜこのようなことができるのだろうか。これは創業者の思想が引き継がれているからである。創業者は顧客一人ひとりに合わせたクリームをつくるという発想で化粧品製造を始めた。その発想を実現しようということが受け継がれているのである。これこそ潜在的蓄積資産が「超常識」を実現する源になっている事例である。

また、一見矛盾するものを統合することも「唯一性」につながる。例えば、高品質と低価格は本来矛盾するものである。しかし実際に「高品質・低価格」を実現したのがユニクロであろう。ユニクロは「高品質・低価格」という一見矛盾するものをSPA(製造小売)という仕組みで実現したのである。

見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは 第3章 173 172 新 戦 略 領 域 ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

高 レ ベ ル の 唯 一 性 の 構 築

新領域⑤「潜在価値」×「超非合理」、新領域⑥「潜在問題」×「超常識」、新領域⑦「創造問題」×「超非合理」、新領域⑧「創造問題」×「超常識」ついては、どの領域も実現のハードルは非常に高いが、実現できれば新領域②③④を超えるレベルの高い唯一性の構築が可能な戦略領域である。

なにしろ、今まで見えていなかった問題や新しく創造した問題をプロセスイノベーションやバリューイノベーションによって解決しようというわけであるから当然である。

その中でも最も高度な唯一性をつくり出すのが新領域⑧である。なぜならいままでなかった問題を創造し、常識を超えるイノベーションをするということであり、誰も気づいていない問題を誰もやったことがない方法で実現するからである。

これに対して既存略領域③は通常のイノベーションであり、問題は顕在化し見えている。しかし誰も解決方法を見いだせていなかったということであり、これ自体でも実現するの

は大変なことである。だが、やはり戦略領域として最強であるのは今までなかった問題を

創り出し、解決手段をつくる新領域⑧である。

ただ前述しているように新戦略領域②③も、潜在問題の追求や問題の創造がイノベーションを引き出すきっかけになる。まずはこの領域の追求から始めるべきであろう。

戦 略 の メ ソ ッ ド

戦 略 フ レ ー ム に 基 づ い た 戦 略 領 域 の 優 先 順 位

ここまで各戦略領域の内容について詳細に説明してきた。戦略とは「独自の戦略目標」を設定し、「独自の戦略フレームで戦略領域」を創り出し、「優先順位」を決めることである。ここでは優先順位の決め方についても述べる。

優先順位の基準は①効果性    ②難易度  (発見の難易度×イノベーションの難易度)である。

第3章

見えないものを見る―

企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する

「潜在価値マーケティング」とは

テキスト ボックス: 低いテキスト ボックス: 高いテキスト ボックス: 効果性テキスト ボックス: ②新次元(次元を変える)テキスト ボックス: 在テキスト ボックス: 潜     在
問     題
テキスト ボックス: 創テキスト ボックス: 造
   唯一性(差別的優位性)
= 独自の蓄積資産の活用 + 新次元 + 超非合理 + 超常識
(真似できない)
(次元を変える) (真似したくない) (できない)
独自の蓄積資産(真似できない)
問題×解決策 マトリックス

【図14】実行に移す優先順位の表                                                                       【図10】新しい戦略フレーム=差別的優位性は新領域から探り出す

既存の最適化
低い
   新表現開発
既存領域①既存領域②
新領域①新領域②新領域③
新領域④新領域⑤
    既存   領域③
新領域⑥
新領域⑦新領域⑧
高い
イノベーション

テキスト ボックス: 顕

顕    在   既存領域① ◦商品・サービスの機能 ◦顧客、取引先 ◦販売実績 ◦販売組織、ネットワーク ◦特許 ◦設備(店舗、工場) 潜    在     新領域① ◦社風 コーポレートイメージストックブランドイメージストック ◦創業者 ◦歴史 ◦企業理念 ◦戦略発想 ◦開発の発想、エピソード ◦販売の発想、エピソード ◦生産の発想、エピソード ◦品質管理の発想 ◦技術力 ◦ノウハウ ◦実績(研究・受賞) ◦組織原理 ◦人材開発の発想  
超非合理 (真似したくない) 超常識 (できない) 解決策 顕在価値 やりたくない できない  
  既存領域②     新領域④   既存領域③ ◦高機能 ◦低コスト化 ◦時間短縮 ◦セグメンテーション ◦ターゲティング ◦ポジショニング ◦一見非合理・非効率なことをする ◦面倒なことをする ◦カッコ悪いことをする ◦業界の常識への挑戦 ◦矛盾の統合 ◦異質なものの組み合わせ     新領域② ◦潜在問題の発見 ◦提供価値の追求 ◦新しい定義をする ◦新カテゴリーを創る     新領域⑤   既存領域⑦     新領域③     新領域⑥   既存領域⑧     技術的 イノベーション ◦新しい基準を創る   ◦新しい目標を創る   ◦新しい夢を創る   ◦新しい世界を創る    

難易度

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見えないものを見る―企業自身も気づいていない自社の魅力を訴求する「潜在価値マーケティング」とは
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簡単に言えば、効果性が高く難易度の低いものから始めるべきである。その次に効果性

が高く難易度が高いものにチャレンジしていくという優先順位となる。

優先順位1    難易度が低く効果性が高い

新戦略領域①    潜在的蓄積資産活用新戦略領域②    潜在問題

新戦略領域③    創造問題

優先順位2    難易度は低くはないが、顕在問題なので見えている新戦略領域④          顕在問題×超非合理

既存戦略領域③      顕在領域×超常識

優先順位3    発見の難易度は高いがイノベーション度は低い。効果性が高い新戦略領域⑤    潜在問題×超非合理

新戦略領域⑥    創造問題×超非合理

優先順位4    難易度は低いが、効果性は低い

既存戦略領域①    顕在的蓄積資産活用既存戦略領域②    顕在問題×顕在価値

優先順位5    最も効果性は高いが、難易度も最も高い新戦略領域⑦    潜在問題×超常識

新戦略領域⑧    創造問題×超常識