はじめに
なぜデジタルマーケティングで満足な成果が得られないのか
広告やマーケティングの世界はインターネットの登場によって大きく様変わりした。かつてはマスメディアによるマーケティングが主流であったが、今ではインターネット中心の施策へ移行している。
実際、インターネット広告費は1兆5000億円(「2017年日本の広告費」電通調査)を超え、テレビメディア広告費に迫る時代となった。
また、スマートフォンが普及し、消費者、ユーザーの生活行動が変化したことに呼応して、多くの企業でデジタルマーケティングのためのさまざまなツールも取り入れられるようになった。だが、その成果に企業たちが満足できているかというと疑問が残る。
なぜならデジタルの黎明期とは違って、インターネット広告の新手法やデジタルマーケティングの最新ツールを導入しても、それだけでアドバンテージが得られる時代は終わったからだ。
私たちが2018年3月に日本マーケティング協会と協力して行った、デジタルマーケティングセミナーでのアンケート結果でもリアルな声が浮かび上がった。参加したのは日本を代表する優良企業が多く、各社ともデジタルマーケティングに積極的に取り組んでいるものの、やはり「多少の成果は出ているが、満足なものではない」という回答が最も多かったのである。
いったいなぜ、最新手法や最新ツールを取り入れているのに、その成果を十分に享受できないのだろうか。
コ ミ ュ ニ ケ ョ ッ ン の 本 質 を 探 索 す る 時 代 へ
デジタルマーケティングを取り巻く課題を探る前に衝撃的なことをお伝えしなければならない。
今後もAI(人工知能)などを活用したデジタルマーケティングの進化はさらにスピードを増していくが、それらをキャッチアップし続けても、デジタルマーケティング投資に見合った成果を享受するのは難しいということだ。
そもそもデジタルに限らずアナログの時代からマーケティングコミュニケーションの本質は変わっていない。「なにを」「どういう手段で」伝えるかという原点に立ち返れば、いくら手段を新しくしても、肝心の「なにを」がズレると、消費者、ユーザーとのコミュニケーションがうまくいくはずはないのである。これはBtoCでもBtoBでも同じだ。
まずは、この最初のボタンの掛け違いに気づかなければならない。
ここ十数年、マーケティングの世界では新しいツール(手段)に目を奪われ「なにを」が相対的に軽んじられてきた。だが、もはやインターネットもスマホなどのデバイスも当たり前になり、その目新しさは失われ、消費者やユーザーを惹きつけるものでもなくなった。
つまりツール活用以前に本当の意味で消費者、ユーザーの興味関心を惹起し、態度変容させるマーケティングコミュニケーション上の有益な表現開発が求められているのだ。しかも、その表現開発は従来型の4マス媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)中心の時代とは異なってくる。テレビの15秒スポットのような少ない情報量でいかに目立つかというものではなく、多様化した情報チャネルの中で消費者やユーザーと深くコミュニケーションできる表現開発が必要になってくるのである。
デジタルマーケティング時代になったことで、マーケティング施策の高速PDCAが回せるようにはなった。だが、そこで明らかになったのは、すでに顕在化している価値(価格優位性や新機能、バリエーション性など)をコミュニケーションの中心に据えても、それほど効果はないということ。つまり手詰まりなのである。
既存の価値では消費者、ユーザーの態度変容は起きない。だからこそ、今までにないもの、埋もれてしまっているもの、見過ごされているものを探索しなければならない。そこで根本的な問題解決の鍵となるのが、本書で取り上げる『潜在価値開発』である。
消費者、ユーザーのみならず価値提供する側の企業も気づいていない「潜在価値」を認識して掘り起こし、最適な表現開発をすることでしか、デジタルマーケティングの見えない壁を越えることはできないのだ。
こ れ か ら の ビ ジ ネ ス の 根 本 と な る「 潜 在 価 値 マ ー け テ ィ ン グ 」
このようにマーケティングを取り巻く状況が大きく変容しているにもかかわらず、相変わらず従来型のマスマーケティング時代の考え方、発想から脱却できていない企業、広告代理店は少なくない。
SNSを使ったバズマーケティングといった手法も一見新しいように思えるが、広く拡散させて自然な歩留まりに任せるしかない点でマスマーケティング発想と根本は変わらないものだ。しかも自分たちの魅力や優位性を伝えているつもりでも、ほとんどが発信側の一方的な思い込みから抜け出ていない。
現在、私は「本当に世の中の役に立つ新しいビジネス理論やモデル」を提供できるチームとして株式会社ビモクリを立ち上げ、さまざまな顧客企業のコンサルティングに携わっているが、その現場でもマーケティングギャップには想像以上のものがある。
社員の声、顧客、ユーザーの声を深く綿密に拾っていくと、企業側の認識と顧客、ユーザーの認識に鮮明な断層が現れ、愕然とすることが多々あるのだ。
自分たちは特に価値があると思わないこと、当たり前すぎて改めて訴求するほどでもないと「思い込んでいる」あるいは「気にも留めていない」ものに、むしろ顧客やユーザーが魅力を感じ態度変容にもつながる本当のお宝(差別的優位性)があることを発見し、企業は衝撃を受けるのである。
こうした事態が起こるのは人間の本性のためであり、誰が悪いのでもない。人は他人のことは客観的に見られても、自分を客観的に見るのは難しいものだからだ。
企業も人の集団で動き、形づくられている以上、人間と同じ現象が生じる。真面目な努力を長年続けている企業ほど、自分たちのやっていることは当たり前で大したことではないと思いがちだ。
つぎつぎとイノベーションを起こし、新商品や新たなサービスを展開している企業でも、顧客やユーザーは「新商品、新サービス」に魅力を感じていると思い込み、実は創業理念や経営者の哲学に共感してくれていることに気づかなかったりする。
いずれの場合でも、本来、きちんと表現開発して伝えるべきことをマーケティングの中に組み込まず、ズレたところでマーケティング施策を行っても一時的な効果しか生まれないため投資効果は限られる。
人口減少時代の今、マーケティングが担うべきは、一時的に動員した顧客がしだいに離れていくのを指をくわえて見ていることではなく、自分たちの「潜在価値」を認識して表現開発し、他には目もくれずに自社のファンとなってくれる本当のヘビーユーザーを獲得することだろう。
マ ー け テ ィ ン グ サ イ エ ン ス の 先 を 開 発
私が従来型のマスマーケティングに疑問を抱き、マーケティング革新の必要性を感じたのは前職のヤクルト時代のことだ。
私は11年に株式会社ヤクルト本社に入社以来、一貫してマーケティング・広告畑を歩んできた。1991年には缶コーヒーのブランド担当として、「とんねるず」を起用したCMによって1年で売上げを倍増させ、以降、マーケターとして、トクホ健康茶「蕃爽麗茶」の圧倒的トップシェア獲得や「ヤクルト黒酢ドリンク」の黒酢市場トップシェア獲得、10本パック導入というインストアマーチャンダイジング的手法によって一時大きく低迷したヤクルトブランドを復活させるといった成果を上げてきた。
このようにマスマーケティング的な手法で成果を上げてきたわけであるが、その手法を突き詰めれば突き詰めるほど逆に限界を感じるようになったのである。
マスマーケティング的手法の限界についてはこの後詳細に述べるが、そうした中で私が自ら構築したのが、潜在価値を再認識し、顧客に伝える「潜在価値マーケティング」である。
2010年には広告部長に就任し、「ジョア」のブランド広告で飲料部門CM好感度1位を獲得した。これらの実績も、偶然そうなったのではなく、「潜在価値開発」によるきちんとした〝計算〞によって、なるべくしてなったものである。
そもそもヤクルト本社時代の11年、マーケティング部の創設に伴い、当時最先端であったMI流のマーケティングサイエンス理論を学んでベースにしたのだが、理論の限界も感じざるを得なかった。
なぜならデータサイエンスは事後の結果に関しては多方面から細密に分析できるが、そうした結果の前提となった〝仮説〞に関しては、結局、人の経験や勘から導き出すという域を出なかったからである。
マーケティングにおいて仮説こそ重要なのはいうまでもない。これを伝えたらユーザーの意識がこう変化し、行動がこう変わる。その仮説形成を正しくロジカルに行うために構築したのが「潜在価値開発」である。前述したヤクルト時代の仕事においてその革新的な効果を実感し、行き詰まり状態にある世の中のビジネスを激変させるため新たな会社を立ち上げたのだ。
「潜在価値開発」の理論では、企業自身も認識していなかったその企業独自の「価値」を引き出し、表現開発して伝えることで顧客、ユーザーの心を動かし、行動までも変えることができる。競争優位性をめぐって競合としのぎを削る必要もなく、「潜在価値」がもたらす「差別的優位性」「唯一性」によって圧倒的に勝つことができるのである。
私は現在、この「潜在価値開発」をデジタル化したインターネットプラットフォームである「潜在価値マーケティングプラットフォーム」を開発。これによりマーケティング戦略の立案から実行までを一気通貫でサポートできるようになり、顧客をより確実に成功に導いている。
「 潜 在 価 値 マ ー け テ ィ ン グ 」 で 「 罠 」 か ら 抜 け 出 す
本書を手に取っていただいた方々の中には、企業のマーケティング担当者、ブランドマネージャー、広告宣伝担当者、ユーザーコミュニケーション担当者、あるいはコンサルティングで顧客の事業にマーケティング上の問題解決を必要としている方なども多いと思われる。
そうした方々に、一言でいうならば企業が陥りがちな「思い込みの罠」から抜け出し、「潜在価値マーケティング」によって差別的優位性を手にするまでの理論と具体的ステップをお伝えするのが本書の目的だ。
デジタルマーケティングを導入しているが、成果に満足していないという人、マーケティングの次の展開に思い悩んでいる人、デジタルとリアルの融合のヒントが欲しいという人にも本書は役立つことだろう。
従来のやり方では、企業側からの目線で顧客ベネフィットではない「商品やサービスの機能」を語ったり、いかいも顧客やユーザーのことは分かっていますという「それらしい表現」でバランスよく自社のことを伝えるマーケティングをしてきたが、その成果には満足できていないというケースも多い。
あるいは広告代理店やコンサルファームなどのプロに任せきりで自分たちは管理しかしておらず、本当に効果のあるマーケティングを求められても、なにが問題でなにをどうすればいいのか分からないという声も聞く。その場合でも、本書でなにをすればいいのかをつかんでいただけるようにしたい。
なにより、デジタルマーケティングやマーケティングオートメーションといった新しいフレームとさまざまな指標に追い立てられ、肝心の「自分たちの本当の強み=潜在価値」を見つけられずに日々の業務に疲弊している人の味方になれるはずだ。
人間も企業も自らの本質的魅力に「無自覚」であることは、人生を生きる上でも企業活動を行う上でも足をすくわれる「罠」となる。まずは見えない「罠」とは何かを自覚し、「潜在価値マーケティング」によって「罠」から抜け出し、ビジネスを成功に導いていくことが肝要だ。そのための強力なエンジンに本書がなれれば、それに勝る喜びはない。
目 次
はじめに ➔ なぜデジタルマーケティングで満足な成果が得られないのか / コミュニケーションの本質を探索する時代へ / これからのビジネスの根本となる「潜在価値マーケティング」 / マーケティングサイエンスの先を開発 / 「潜在価値マーケティング」で「罠」から抜け出す
第1章:マスマーケティング、消費者インサイト論……既存のあらゆる理論をしのぐ、新マーケティング理論の登場
「潜在価値マーケティング」が乗り越えようとするもの / デジタルマーケティングを超えて / マスマーケティングへのアンチテーゼ / 競争戦略と消費者インサイト論を超えて / 消費者意識構造のゴール / 行動ヘビー・マインドライトの法則 / デジタルマーケティングの本質 / AI時代のマーケティング / 「潜在価値開発」とはなにか
第1章:マスマーケティング、消費者インサイト論……既存のあらゆる理論をしのぐ、新マーケティング理論の登場
「 潜 在 価 値 マ ー け テ ィ ン グ 」 が 乗 り 越 え よ う と す る も の
どれほど優れた理論であっても、理論だけではビジネスは絵に描いた餅に終わりかねず、トレンドをつかんだビジネスモデルがあっても理論の裏付けがなければうまくいかない。本来、ビジネスはその両輪が機能して初めて成果が出るものだが、ことマーケティングの世界においては長い間、どちらか一方が先行しどちらか一方が追いつかない状況が続いていたのである。
そうした現状を打破すべく、私は、自身の会社のミッションを次のように掲げた。ビジネスの新しい理論やモデルを創出することで、ビジネスの世界を革新する――。新しいビジネス理論とは、「潜在価値開発」理論であり、新しいマーケティングモデルとは「潜在価値マーケティングプラットフォーム」である。
「はじめに」でも述べたように、私は長いマーケティングの経験の中で、その時々のマーケティング原理(根本理論)を寄りどころにしてきたが、数々の実践過程の中でそれらの限界を感じたのも事実である。ビジネスの世界では、優れた理論や手法として注目を集めたマーケティング原理も数多くあったが、それらを最大限活用したとしても〝乗り越えられない壁〞があったのである。その壁を乗り越え、時代を超えるマーケティング原理を構築することが必要であると強い思いを持つに至ったことが「潜在価値開発」理論構築の動機となっている。
また、世の中に流布しているさまざまなビジネス理論はほぼ欧米発のものであり、日本人が開発した理論はほとんど見られない。それも大変残念なことに思っていた。高品質なモノやサービスを生み出す日本のビジネス、多様な地域性を持つマーケットと世界でも先端を行くモバイルエコノミー。そうした日本の特性も敷衍しつつ、時代の変化にも左右されず業種業態問わず適用できる日本発の独自のビジネス理論を創りたいと思ったことも、もう一つの動機となっている。それらを単なるノウハウ集としてではなく、体系的かつ実践的な理論化を図ったのが本書である。
従って、本書のベースとなる「潜在価値開発」理論は、30数年に及ぶ私のマーケティング実体験をベースに創り上げてきたものであり、欧米で開発された理論をそのまま持ってきたり、他者の事例から成功ノウハウを抽出してまとめたりしたものではない。さらには、私が5年前に創業した、ビジネスモデルをクリエイトするマーケティング会社において、クライアントとのさまざまな実践により、進化し確立され、血肉化したものであることを最初にお伝えしておきたい。
では「潜在価値開発」をバックグラウンドとする「潜在価値マーケティング」が乗り越えようとしたものはなにかというと、従来型でなおかつ今日まで主流とされてきたマーケティング原理や手法である。具体的には主に次のようなものである。
- 競争戦略理論: マイケル・ポーターによる、コストリーダシップ戦略・差別化戦略・集中戦略により競争優位性を獲得する戦略
- マスマーケティング(STP=セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)理論
- 消費者インサイト論: 消費者の意識構造を探るもの
これらのマーケティング原理は部分的には個別最適となるものもあったが、マーケティング全般において問題を解決し成果に導いてくれるもの、つまり全体最適とはならなかった。まさに「帯に短し襷に長し」だったのである。また、従来型マーケティング原理は、最先端をいくデジタルマーケティングとの整合性や最適化が取れないことも課題となっている。それらを踏まえ、今後さらに進展するであろうデジタルマーケティング時代に顕在化してくる問題の解決も図るのが「潜在価値マーケティング」の狙いであり使命だと考えている。
こうしたバックグラウンドを踏まえたとき、本来であればマーケティングの歴史的な順序で語るべきであろうとも思うが、まずは皆さんの興味関心が高く最近の話題であるデジタルマーケティングから取り上げていくことにしたい。
デ ジ タ ル マ ー け テ ィ ン グ を 超 え て
2018年3月に日本マーケティング協会において、「潜在価値開発」セミナーを実施した折、「あなたの会社のデジタルマーケティングの現状はどうですか?」とアンケートを行ったところ次のような回答が集まった。
- ①まったく実施していない ・3.8%
- ②実施しているが、まだ始めたところである ・19.2%
- ③実施しているが、まったく成果が出ていない ・3.8%
- ④実施して、多少の成果が出ているが、満足なものではない ・59.6%
- ⑤実施して、成果も出ている ・11.5%
- ⑥実施して以前は成果が出ていたが、最近成果が出なくなった ・1.9%
セミナーに参加されたのは、いずれも日本を代表する大企業でありマーケティングに優れているといわれている企業も多かったが、約90%の企業が「多少の成果は出ているが、満足なものではない」と感じていたわけである。では、今後これらの企業がデジタルマーケティングをさらに追究し、ツールを使いこなし、最適化が図れていけば成果が上がってくるのであろうか。
デジタルマーケティング先進国アメリカのニューヨークタイムズ紙は2014年10月30日号で、最近の過剰なセグメンテーションとクリエイティブの不足がもたらす問題を次のように指摘している。
《本格的なビッグデータ時代を迎え、一部の企業は、自らが推し進めた高度な技術的進展に首を絞められる状況になっている。単純な話だが、データとアナリスティックスによって極めて精の高いターゲティングが可能になっているものの、それに対応した効果的なメッセージを生み出すことができていない》
デジタルマーケティングが最も進んでいるアメリカで、このような事態が生じているということは、日本においてもデジタルマーケティングがさらに進展すると同じような問題がより顕在化してくるのは容易に想像できる。ニューヨークタイムズ紙の論を待つまでもなく「効果的なメッセージをいかに生み出すか」という点に私の問題意識も集中している。いずれ顕在化してくるこの問題をいかに解決するか。それに対する私の回答が、「潜在価値開発」なので原稿である。
ここで誤解のないよう付け加えておきたいが、デジタルマーケティングそのものに問題があるわけでも、その有用性に疑念を抱いているわけでもない。デジタルマーケティングの仕組み、ツールは極めて優れたものが多い。「潜在価値マーケティング」のオペレーションにおいてもその考え方は変わらない。ただ、ツールの進化に対して肝心の「なにを」の部分、つまりデジタルマーケティング上のさまざまなタッチポイントで伝えるべき効果的メッセージが開発されていないのだ。デジタルマーケティングによって、従来のマーケティングツールではできなかったことができるようになってきたのは紛れもない事実なのである。
【図1:顧客化ステップに対応したデジタルマーケティング概要】
| 顧客化ステップ | デジタル環境の概要 | 使用されるデータ・手法 |
|---|---|---|
| ①対象顧客 | ペルソナ設計、カスタマージャーニー設計 | リサーチ、DMP(行動)、オウンドメディア |
| ②アプローチ可能顧客 | 自社リスト開発、他社リスト活用 | 流通データ、オーディエンスデータ |
| ③アプローチ顧客 | 表現コンテンツ開発 ✕ メディア設計 | ペイドメディア、アーンドメディア、オウンドメディア |
| ④反応顧客 | サイト訪問 ➔ サンプル・資料請求 | オウンドメディア、リターゲティング(MA) |
| ⑤試用購入顧客 | 試用評価・情報提供の実施 | 継続購入促進(CRM)情報提供、オウンドメディア(MA) |
| ⑥購入顧客 | 深い関係づくり、コミュニティ化 | 継続的なロイヤルティ向上教育(CRM) |
| ⑦継続顧客 | マインドもヘビーな優良顧客化 | 唯一性の認知、絶対的信頼の定着 |
顧客化ステップに対応して、デジタルでなければ到底行えない、さまざまな仕組みやメディア構築が可能になっている(図1太字部分)。そもそもマーケティングコミュニケーションとは、①誰に(対象顧客/オーディエンスデータ)、②なにを(表現コンテンツ)、③どういう手段(伝達ツール/デジタルマーケティングツール)で行うかということであり、デジタルマーケティングの時代になり、①の対象顧客の特定、③の伝達ツールの活用は、極端に言えば何でもできるようになったと言える。
このデジタル伝達ツール活用だけにここ数年は注目が集まり、結果、②の表現コンテンツについては、デジタルマーケティング以前と変わらず、クリエイター任せの属人的なやり方でクリエイティブという名のもとにブラックボックス化している点は変わっていない。ここに理論的かつ体系的で実践的な理論と方法を持ち込んだものが、「潜在価値開発」をもとにした「潜在価値マーケティング」という試みなのである。
デジタルマーケティングは、まだまだ発展途上という見方もある。だがデジタルツールの扱いに習熟すればするほど、実はコンテンツの問題がより重要にならざるを得ない。ツールの進化と使い手のマーケターの習熟によって高速PDCAを回せるようになればなるほど「ネタが尽きる」状況に陥るからだ。重ねて述べるが、デジタルマーケティングが進展し、「誰に」「どういう手段で」ということが適切にできるようになればなるほど、マスマーケティング時代よりも潜在価値開発によって生まれる表現コンテンツは生きてくるのである。
マ ス マ ー け テ ィ ン グ へ の ア ン チ テ ー ゼ
もともと「潜在価値開発」は伝統的なマスマーケティングへのアンチテーゼとして発想された。デジタルな世の中になったことで従来型のマスマーケティングが効かなくなったと思われがちだが、そうではない。デジタルマーケティングが今のように発達する以前から、従来のマスマーケティングの発想では、「効果的なメッセージ」は生み出せなくなっていた。
20世紀の人口増加時代、情報発信が主要4マス媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)によって大企業に独占され、販売チャネルがスーパー・CⅤS・量販店など限定されていたシンプルな時代なら、キャッチコピーが効いた目立つ15秒スポットCMをつくり、大量投入すれば、モノは売れていた。広告代理店のメディアバイイングを核としたマスマーケティング構造がまさにものを言っていたのである。
しかし、21世紀の人口減少時代に入り、インターネットの発達によって、情報チャネルは多様化するとともに、消費者自らが情報発信できる消費者主導時代になり、20世紀のマスマーケティングモデルは機能しにくくなっている。もちろん、まだマスマーケティングが適したカテゴリーも残ってはいるが、それとて先に述べたように部分最適であって、トータルでは20世紀型伝統的マスマーケティングは形骸化しているとみるのが妥当だろう。
最近、日本を代表するマスマーケティングの優良企業から要望があり、「潜在価値開発」セミナーを行なったが、セミナーの内容は参加者に衝撃を持って受け止められているのが分かった。この企業はマスマーケティングを徹底的に突き詰めて成長してきたため、むしろその限界を強く感じたのである。機能性中心の研究開発と訴求に限界を感じ、手詰まりになっている。だからこそ「潜在価値開発」の理論に対する理解が非常に早く、しかも深かったのである。
私は、前職のヤクルトで広告、マーケティング全般に携わっていた10数年前からマスマーケティングと真逆の発想を持っていた。マスマーケティングの発想は、大多数に広く目立つように告知して最後にどれだけ歩留まりするかというトライアルユーザーづくりの発想である。これは人口が増加し、新規顧客がどんどん現れてくる時代には有効に機能したが、21世紀の人口減少時代に入り、新規顧客の発生が減少する時代には機能しなくなる。
デジタルマーケティングによってリピートユーザーづくりはある程度行えるようになったが、大本の発想がマスマーケティング時代のモデルであるため、結局、ザルからこぼれたユーザーにはリーチできていない。では、どうすればいいのか。そこで私はマスマーケティングとは真逆に、顧客と深いコミュニケーションを行って初めからヘビーユーザーをつくり、それを核として広げて積み上げていくという考えに立ったのである。
実際20:80の法則のように、20%の顧客で80%の売り上げをつくるといわれるものが、さらに突っ込んだ分析をしてみると、5%の顧客で50%の売上、もっといえば1%の顧客で20%の売上げをつくっていることが分かった。トップ1%の顧客(ヘビーユーザー)は普通の顧客よりも20倍の購買力を持っているということである。
これはヤクルト時代、ある店舗におけるメイン商品の顧客構造を分析したときも同様な結果だった。その店舗には該当商品の顧客が約300人いて、それを購入金額順に並べてみると、トップ顧客のその店における購入金額はなんと9%の構成比を占めていた。つまり0.3%の顧客で売上の9%ということであり、30倍の購買力ということである。つまりヘビーユーザーをつくることがいかに大事かということだ。
ただ、少し補足するとこの法則は誰でもいつでもどこでも安価に買えるという状況の商品ならほぼ当てはまるが、購入頻度の低い商品や高価格商品ではユーザーの自然な購入が制限を受けるために少し比率は変わってくる。しかしヘビーユーザーの重要性ということにはなんら変わりはない。伝統的マスマーケティングの発想からすると、最初から顧客と深いコミュニケーションを取って核となるヘビーユーザーをつくるのは、時間も労力もかかりすぎるのではないかと見る向きもあろう。だが、結果的には最初から核をつくるほうが、遅いように見えて速いのである。ざっくりとした網を大きくかけて掬い取ってもザルはザルである。どれだけその回数を積み重ねてもザルからこぼれ落ちるものは拾いようがない。だからこそ初めからヘビーユーザーをつくりにいくというアプローチが最善なのだ。コミュニケーションの内容とコミュニケーション方法の両面においてである。
コミュニケーション内容においては、後の章で詳しく述べるが、商品の機能や特徴だけをキャッチコピーで伝えるというものではない。最初から核をつくるために「顧客の意思決定過程」に合わせて顧客の問題の重要性・解決手段としてのカテゴリーの優位性・コーポレートの優位性を、プロダクトの優位性と併せてストーリー化して伝えるとともに、この豊富な情報を深く伝える独自の方法を開発したのである。
また、デジタルマーケティングによって消費者、ユーザーのカスタマージャーニーが注目されるようになったが、カスタマージャーニーはあくまで「行動過程」であって消費者、ユーザーの「心理」ではない。デジタルマーケティングで消費者、ユーザーのタッチポイントに最適化されたメッセージ表現を届けることは可能だが、そのユーザーの心理・マインドの自社に対する態度が変わらなければ効果が出たとは言えない。そのためには顧客を態度変容させる情報が何かわかっていなければならない。つまり、「潜在価値開発」は、あくまで心理・マインドもロイヤルなヘビーユーザーを最初からつくるための情報開発であり、情報伝達なのである。
実際にリアルな市場で実験してみると、それは顧客とのコミュニケーションにおいて劇的な効果をもたらした。ライトなユーザーを、まさに「一瞬にして」ヘビーユーザーならしめたのである。しかしこの方法は、とくにコミュニケーション方法において手間がかかる方法であり、リアルな営業・販売組織(例えば筆者の前職ヤクルトのような)を持っている企業でないと実施が難しいものであった。私の会社独自のリアルネットワーク網によってコミュニケーションを可能にする仕組みをつくろうとも試みたが、これも膨大な手間・時間・コストがかかるということで断念せざるを得なかった。そこで、これをネット上でできないかと2016年から実験を試み、独自のマーケティングプラットフォームをつくり上げることができた。潜在価値開発のデジタル化に成功したのである。
【図2:マスマーケティング・デジタルマーケティング・潜在価値マーケティングの違い】
| 項目 | ①マスマーケティング | ②デジタルマーケティング | ③潜在価値マーケティング |
|---|---|---|---|
| 目指すゴール | トライアルユーザーづくり | トライアル・リピート顧客化 | 最初からヘビーユーザーづくり |
| 表現コンテンツ(WHAT) | プロダクトの優位性のみ向上(キャッチコピー) | 行動過程(カスタマージャーニー)に応じた表現づくり | 消費者の「意思決定過程」に基づいた4階層のストーリー化 |
| 開発の手法 | クリエイター(属人的) | クリエイター(属人的) | 体系的な戦略理論・情報開発メソッド |
| 伝達ツール(HOW) | TVスポットCM中心 | IT広告、SNS、メール | 潜在価値マーケティングプラットフォーム(対話システム) |
| 情報伝達の特質 | 不特定多数、少ない情報量、特定時期 | 顧客別、多くの情報伝達、即時・高速PDCA | 一対一の双方向な深い対話、無意識の意識化による態度変容 |
行 動 ヘ ビ ー ・マ イ ン ド ラ イ ト の 法 則
実際、私もさまざまな商品や企業のリサーチをしているが、ヘビーユーザーと言えどもこの4階層(問題認識、カテゴリー選択、コーポレート選択、プロダクト選択)の認識は曖昧なのである。私は、こうした現状を「行動ヘビー・マインドライトの法則」と呼んでいる。行動はヘビーユーザーに見えるが、マインド、意識構造がライトで、ロイヤルティが低いヘビーユーザーが多いのである。
前職のヤクルトでも、一見するとヘビーユーザーに思われる顧客も、突っ込んだリサーチをすると意識構造は非常にライトであることが分かり愕然とさせられた。そのため仮に1年間の顧客の継続率が75%だとすると、25%は離脱することになる。ヤクルトのように顧客との直接コミュニケーション、直接販売の接点を持っていても、毎年新たに25%の新規顧客を獲得しなければならないわけだ。一対一の直接的コミュニケーションをしているヤクルトですらそうだったのである。20世紀型マスマーケティング発想と行動が染みついてしまっている企業では、なおさらである。
そのため相変わらず新規顧客獲得のために競争戦略を練り、消費者インサイトを探っているが、真のヘビーユーザーをつくるには至っていない。企業が、このユーザーは購入頻度や購入単価が高いので安心と思っていても実際には簡単に流出してしまうことが多い。競合への流出ならまだいいほうだが、カテゴリーから流出してしまうことも多いのである。従って、顧客の中に確固たるヘビーユーザーの意識構造をつくる必要がある。
具体的には「問題意識の向上」「カテゴリー優位性の向上」「コーポレート信頼性の向上」「ブランド優位性の向上」につながる4階層に応じた「情報開発」を行い、それらを消費者、ユーザーに提示して、ヤクルトの場合であれば「ヤクルトってそんなにすごいんですね」と態度変容を起させるのである。くり返しになるが、そうした反応を見せた顧客は、それまで「ヘビーユーザー」とされてきた人たちである。なのに、そのように「新鮮な驚き」でもって態度変容するのは、いかにマインドがライトであったかということの証左である。その結果、ヤクルトでは年間継続率が20%以上もアップし、購入単価も上がった。このようにヘビーユーザーのゴールを最初からつくり、そのための「情報開発」を行っていくのが「潜在価値開発」のである。
デ ジ タ ル マ ー け テ ィ ン グ の 本 質
デジタルマーケティングの本質とはなんであろうか。さまざまなツールが開発され、それらに目を奪われ、本質が忘れられがちであるが「デジタルマーケティングの本質は一対一の対話」なのである。デジタルマーケティングは個別対応が可能であるから、一対一ということは読者の皆さんも理解してもらえると思うが、「対話」というものがピンとこないかもしれない。しかし、この対話というところにデジタルマーケティング成功の重要ポイントがある。
対話の前提として、何度も述べているように顧客の心を動かす表現コンテンツが必要なことは言うまでもない。しかし、どんな内容であっても、ただ伝えるという一方通行のコミュニケーションでは顧客が受け身となり、深く伝えることはできないものである。従って一方通行にならない双方向のコミュニケーションが必要となる。顧客側から関与してもらうことが肝要なのだ。つまりリアルで行われる一対一の対話とまったく構造は同じなのである。デジタルマーケティングは、もはやこうした次元に来ているということだ。
A I 時 代 の マ ー け テ ィ ン グ
デジタルマーケティングを進展させる要因としてAI(人工知能)が挙げられる。2018年4月に開催された「AI・人工知能EXPO」にも足を運んだが、これまで訪れたイベントの中でも圧倒的に盛況で、多くの人であふれかえっていた。まさに時代の最大のトピック、人々の関心事なのだということが伝わってきた。AIによってビジネスが大きく変わることに対し、人々が期待と不安を感じているのがよく分かる。現実的には、どちらかというと不安のほうが多いかもしれない。華やかなイベントの中にも、今後をどう考えていいのか分からないという不安があふれている感じであった。