週刊 企業と広告 誌上マーケティング講座

メーカーは商品に逃げる

2015.07.27
「空飛ぶペンギン」のマーケティング講座
第18回

 前回はB2B企業が陥りがちな思いこみ(罠)についてお話しました。今回から情報開発の話をしますと申し上げましたが、もう一つ課題提起しておきたいことがあります。それはどんなメーカーも陥りがちなことです。

 

「メーカーは商品に逃げる」

 

 私の前職はメーカーでしたからよくわかるのですが、「メーカーは商品に逃げ」がちなのです。メーカーは世の中の役に立つ商品を創ることが本来の使命ですが、放っておくと商品を創ることが単なる近視眼的な自己都合になってしまいがちです。

 

確かに競争が激しい中で、どんどん新商品を出してほしいという営業の要望は常に強いものです。新商品を出さないとスーパー・CⅤSの棚を守ることは難しいので、わからないでもないです。

 

 また根底には画期的な新商品が出ればすべて解決するという思い込み(幻想)があります。しかしそんな幻想は実現しません。今ある商品をうまく表現開発することができていないというのが、本当の課題であるケースが多いのです。この本当の課題に向き合わず、何か刺激が欲しいということで新しい商品を要求します。その結果、不必要な過剰な商品開発が行われ、商品開発部門はより価値ある商品を開発するという本来の機能を果たすことなく、ちょっと目先を変えた商品、差別化(差異化?)商品の開発に追われることになります。必要なのは、ほんのちょっとの違いしかない差異化商品ではなく、違いが競争優位性に結び付くような「差別的優位性」をもった商品なのですが、そんなことをやっている余裕はなくなってしまいます。
 実際新商品を出せば短期的には売上は上がるのですが、本質的な課題(マーケティングコミュニケーション、表現開発)は解決されていないので、すぐ元に戻ってしまいます。

 

 しかし、本当にそれでいいのでしょうか。

 

「表現開発ができていない」

 

 私もヤクルト本社というメーカーにいたからそのようなことはよくわかるのですが、営業部門から何か新商品を出してほしいという要望は強かったですね。しかし私はどんどん商品を出せば問題が解決するとは思っていませんでした。問題は商品よりマーケティングコミュケーションにあると思っていたからです。

 

 それは二つの面がありました。ひとつはこの講座でいつも話しているように、「差別的優位性をうまく伝える」という表現開発がうまくできていないこと。もうひとつはあまりに販売する商品が多いために、マーケティング投資が分散化してしまい、効果の出るレベルの投資になっていない。この二つです。

 

 したがって、私の場合はまず表現開発を徹底することから始めました。主要な商品と重要な新商品だけに絞って表現開発をすすめ、これならいけるという段階までリサーチと市場テストで検証をしてから、マーケティング投資をしました。

 

 さらに、この年はこの商品に集中という形で、徹底した重点投資を行いました。それまでは営業の意向を聞いて、あれもやってほしいこれもやってほしいということで分散投資になり、まったく効果が出ていなかったからです。

 

 このような表現開発と重点投資をした一つの事例が、私が4年ほど前に実施した剛力彩芽さんを起用した「ヤクルトジョア」のキャンペーンです。店頭売上は、前年比176%、CVSには90%以上の配荷(それまではほとんど入っていなかった。これ以降ずっと継続的に入っている)、CMデータバンクの高い好感度評価(ドリンク類1位、総合5位/2744ブランド中)などを達成しました。

 

 私は商品開発部門に、商品なんかいらないよ、今の商品だけで十分だ、営業部門にはムダな新商品・商品改良をして商品開発部門を疲弊させるなと言っていましたし、私がその前により商品開発に近いマーケティング部門にいた時は、商品数の削減を徹底してやっていました。

 

 ある程度の商品力のある商品を持っているメーカーの場合は、マーケティングコミュニケーション力を高めた方が効果的なのです。商品の「差別的優位性がうまく表現」されていなければ、商品は存在しないも同然になってしまいます。

 

 私の結論はいつも一緒です。まず今ある商品の「差別的優位性をうまく表現する」表現開発をきちんとやりましょう、です。なぜなら、この努力があまりに足りていないのです。今の商品のコミュニケーションが十分にできているか、そこから見直しをしてみましょう。